電子書籍で1000万円儲けられるって本当?

ビジネス

公開日:2014/10/2

 自分が関わった仕事の電子書籍版が販売され、印税が入ってきた。原作モノの関連商品で印税率は15%程度で収入は月に1万円前後。これだけで食べていけるような儲けではないが、別に驚きもしない。

 そもそも自分が電子書籍端末を持っていないし、知り合いでも利用している人は少ないし、「Kindle Paperwhite」のCMから漂う『テラスハウス』臭にはひたすらイライラするし。

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 電子書籍を取扱っていた企業が相次いで撤退している現状では、電子書籍だけで生計を立てるのは難しいように思える。

 そこで『電子書籍で1000万円儲かる方法』鈴木みそ、小沢高広(うめ)/学研)を読んでみた。鈴木氏は「Kindleでのセルフパブリッシングで、1年間で1000万円儲けたマンガ家」で、小沢氏は「Kindleのセルフパブリッシングに、日本人マンガ家として初めて着手したパイオニア」だ。

 元々、紙媒体でマンガ連載をしていた両氏が電子書籍へと活動の場を求めたきっかけは「サバイバル」。出版業界・マンガ業界が斜陽になり雑誌数が減り、ギャラや発行部数が抑えられ収入が減っていく中で、コストを軽減し、作品発表の場を確保しようとした先が『マンガの電子化』だった。

 鈴木氏が、自らの作品を1巻100円でKDP(Kindle Direct Publishing)で販売したところ、いきなり月間1万部を売り上げた。KDPは印税率70%なので70万円の収入。これはかなりの成功例だ。鈴木氏や小沢氏の場合、既出の作品があり、ファンもいるというアドバンテージがある。しかし、鈴木氏の作家活動のスタート地点にあるのは意外にもミニマムな思考だ。

 鈴木氏のいう「1000人の村説」とは「自分と同じ考えをもっている人が、世界中を探せば1000人ぐらいはいるだろう」「自分にあった仲間の数を想定して、その人たちに発信する場所を作れば、濃く長く、作家活動を続けることができるのではないか」という考え方である。シンプルだが、実に説得力がある。

 だが、描きたいものを描いているだけでは、作品を売ることはできない。セルフパブリッシングである以上、宣伝もセルフプロデュースも、すべて自分で行わなくてはならないのだ。では、「売るために」何をすれば良いのか?

 まずは「電子書籍のユーザー層を理解すること」だ。電子書籍ユーザーはネットと相性が良く、ガジェットやテクノロジーなどに興味がある。作品を作るに当たっては、その手の人たちが好みそうなテーマやジャンル、ネタを選んで「狙い撃ち」することが必要になってくる。一方で、女性や子どものユーザーは少ないので、少女マンガや子ども向けのマンガをヒットさせるのは容易ではない。

 宣伝に関しては、やはりSNSやTwitterなどを積極的に利用し、一人でも多くの人に作品や作者のキャラクターを知ってもらう努力が必要になる。

 そして、作品を売る段では「作品に適したパッケージング」が重要だ。

 電子書籍の販売サイトに表示されるサムネイル=表紙には、特にこだわりたい。タイトルロゴを大きめにしたり、表紙の色を統一したりして、ひと目で作品を認識してもらえるデザインが必要だ。

 価格面では、買いやすさを意識し、ワンコインで買える程度の設定が効果的だ。鈴木氏は、「数ページで100円」と「300円で単行本一冊分」の場合、何十倍ものボリュームがあるのに300円のほうが割高感があるという。「人が最も幸せを感じるのは購入の瞬間」だという小沢氏の持論も併せて、価格設定をしたい。

 シリーズものなら、1巻を安くして2巻以降の価格を上げるのもアリだし、小説の場合はマンガとは逆にボリューム感がお得感につながる場合もある。作品ごとの売り方の工夫が必要になるだろう。

 ここで紹介したのは、本書のごく一部に過ぎない。本書にはもっと具体的で実践的な「電子書籍」の売り方や、マンガのデジタル化のためのノウハウが紹介されている(パソコンでマンガを描くときにオススメのタブレットはどこのメーカーか、など)。さらには、パソコン黎明期から現代までのデジタル環境の変遷が両氏の経歴と共に語られており、『電子書籍』を成り立ちから理解できる。

 小沢氏いわく、今は出版業界の変革期だ。まだ始まったばかりの電子書籍の世界には、旧来の出版業界のような慣習も前例もない。

 自由な発想で新しいことに挑戦できる場がそこにある。紙だとか電子だとかにこだわらず、自分の作品を発信するひとつの手段として、肩肘張らず「普通」に電子書籍を出版してみよう。それが、1000万円の金脈を掘り当てる最初のスコップだ。

文=水陶マコト