手足、鼻、アソコが腫れ、激痛が1カ月続く種類も! 美しくも危険な「毒きのこ」の世界

暮らし

公開日:2014/10/3

 秋の味覚の代表「きのこ」。しかし毎年シーズンになると、間違って毒きのこを食べてしまう人たちのニュースを耳にするんだよな…と思っていたら、滋賀県でツキヨタケがヒラタケと間違えて販売され、食べた人が腹痛などを起こしたというニュースがあった。

 このツキヨタケ、平安時代末期に成立したといわれる『今昔物語集』にも登場する。上司である80歳過ぎの僧を亡き者にすれば俺がトップになれる、と毒殺を企てた70歳の僧が毒きのこ料理を食わせるも、80歳の僧は普段からよく食べていて少しも毒が効かない体質だったという話で、これはツキヨタケと考えられているそうだ。また『今昔物語集』には、山中で木こりと尼がきのこを食べたら楽しくなって笑ったり踊ったりしてしまう話もあって、これはオオワライタケを食べたのではないかと言われているそうだ。そうした毒きのこに関するエピソードとともに、様々な種類の毒きのこを美しい写真で紹介しているビジュアル本が『毒きのこ 世にもかわいい危険な生きもの』(新井文彦:写真、白水貴:監修、ネイチャー&サイエンス:構成・文/幻冬舎)だ。

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 本書によると、ツキヨタケは広葉樹の枯木や倒木に生え、シイタケやヒラタケに似ていることから、2003~12年の10年間で786人という日本で最も中毒例の多い毒きのこだという。胃腸系の症状や、場合によっては幻覚、痙攣など神経系の症状を伴うこともあり、腹痛や嘔吐のあとに見るものがすべて青く見えたという話もあるという。また発光することでも知られていて、本書にも非常に幻想的な闇の中に怪しく光る写真が掲載されているが、実際にはよほど注意しないと見えないくらいの弱い光なのだそうだ。そしてオオワライタケはコナラやシイの枯木や倒木に生え、食べると中枢神経に作用を及ぼし、食後10~20分で震えや目眩、重症になると視覚障害や幻覚、精神錯乱などの症状に襲われるという。

 もっと恐ろしい毒きのこもある。食べた数日後に手足の先や鼻、男性器などが腫れ、そこに焼け火箸を刺されたような激痛が1カ月も続き、ひどいと衰弱死してしまうというドクササコは、男性にとっては悪夢のような毒きのこだ。しかし食べてから数日経たないと症状が出ないことから毒きのこが原因とはわからず、以前は風土病と思われていたそうで、そのあまりの痛みと苦しみから「火傷菌」「地獄もたし」という別名があって、有効な治療法はないというから恐ろしい。明治時代にはドクササコを味噌汁に入れて食べてしまった家族全員が中毒となって悶え苦しみ、両手足の激痛だけではなく皮膚の剥離まであって、67歳の男性が入院10日後に意識不明で昏睡したまま衰弱死してしまった記録があるという。ちなみにドクササコは2003~12年の10年間で45人の中毒例が報告されているそうだ。

 またかつては珍しい品種だったが、最近増えている怖い毒きのこがカエンタケだ。「火焔」というだけあり、真っ赤でいかにも毒々しい姿で、食べると悪寒、腹痛、下痢、嘔吐、手足のしびれなど様々な症状を引き起こし、最悪の場合は脳神経障害などで死ぬ(致死量は生の状態でわずか3グラム!)場合があるという。さらに触って汁に触れるだけでも皮膚がただれるという超危険な毒きのこだ。

 毒きのこがなぜこれほどの強い毒を持つかということに関して、「科学的に納得のいく説明はまだなされていません」と監修を担当した菌類学者の白水氏は語っている。またきのこ写真家の新井氏は、毒きのこ=悪と思われがちだが、毒きのこたちに罪はなく、先入観なしにありのままの姿を見て欲しいと言っている。そう、毒きのこではなく、それを食べようとする人類がいけないのだ!

 菌類であるきのこは、他の生物が食べられないものを分解する「森の分解者」であり、食用きのこも毒きのこも、同じように今日もせっせと森の中で働いている。本書を読むとその愛らしい姿を探しに出かけたくなるかもしれないが、どうしてもきのこ狩りをしたい人は、必ず専門家に相談を。

文=成田全(ナリタタモツ)