ミュージシャンに憧れる長男、ポエムを綴る次男…思春期こじらせ男子がすごい!

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公開日:2014/10/4

 思春期を迎えると、子どもたちは「自分とは何か?」を探し始めるもの。その過程のなかで、「他人とは違う特別な自分」を思い描いたり、自分を認めて欲しい、大人扱いして欲しい、周りが思う自分と本当の自分は違うといった思いが芽生える。しかし、その思春期をこじらせてしまうことも少なくない。『息子が思春期をこじらせている』(華桜小桃/ぶんか社)では、ミュージシャンに憧れてエレキギターをかきならす長男とネガティブポエマーな次男を息子に持つ作者が、2人の様子を描いている。そこから、彼らのこじらせっぷりを見てみよう。

 まず、とにかく自分大好きな長男は、思春期特有の「本当はすごい自分」という思いが強すぎるよう。オリジナルのデモCDを作っても配らず、「俺ひとりスカウトされるわけにはいかないじゃん?」と大真面目に話すのだ。自分のバンド事情が周りに知られていることを知ると、母親がマンガのネタにしているとは思わず、「実は俺のバンドはもう全国区なのかも!!」と目をキラキラさせて喜ぶ。長男がバンドを組んではじめてのライブでは、その詳細が載っているHPに「秋田破壊計画」「今度のライブはケガ人続出まちがいないゼ!!」の文字が躍っていた。

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 しかし、当日はなぜか父親のお下がり着てステージに立つし、初オリジナル曲のタイトルは「口内炎」で、歌詞は「口内炎イタくてポテチが食べらんない」とか「冷やし中華なんてもってのほかだよー」といったかなり単純なものだったりする。その後も飛んだり跳ねたり首を回したりしてパフォーマンスする長男だったが、終わってみると初めてのライブで彼が壊したものは、秋田ではなく自分の首だったよう。傍から見ていると痛いと思うかもしれないが、本人はとても楽しそうに生きているように見えるので、母親目線で見るとむしろ微笑ましいぐらいに映るのではないか。

 一方、弟の方は超ネガティブ。緊張すると手汗がすごい次男の、初めてのメアドは「Negative with tease」だし、進路を決める時期になると「…俺は製造業に就きたい!」と言い出すのだが、その理由もネガティブなのだ。「ひとつの場所でただ黙々と部品を組み立てたい……まるでロボットのように…」「…いやむしろ…己自身が部品になってしまいたい」とまで言い出す始末。中学時代は卓球部に所属していたのだが、1点でも先に取られたら「…もうお終いだ……すべてが終わった…このまま地球も終わるんだ…だってマヤの暦が終わっているから…」と他の部員まで巻き込んでしまうくらいのネガティブパワーを持っていた。

 また、思春期に自作のポエムや歌詞をノートに書き綴ったことがある人は少なくないだろう。しかし、次男の場合はセリフやメールまで妙にポエムがかっているのだ。たとえば、「車でお迎えにきて」というメールも、直接ではなく「ポツポツ…(雨か…)」とか「足→棒…ヒザ→笑う…俺→苦痛…」といったもので、1年で1番楽しみにしている夏祭りから帰ってくると「帰り道 振り返るとすでに懐かしいセピア色なんだ…」と語る。妄想や空想の世界に生きていそうな次男だから、少し心配にもなりそうだが、実は俺様長男のとばっちりを受けて育ってきた彼は、いつのまにか母親も聖母も通り越して、牧師のような優しさを持ち合わせた人になっていたのだ。

 思春期の子どもたちは、急に親の理解できないような行動に出たり、親と衝突することも少なくない。でもそれは、彼らが将来の道を模索しているということ。だから、親は否定したり過剰に心配するのではなく、作者と同じように心のなかで面白がりながらも温かく見守ってあげるくらいでちょうどいいのかもしれない。

文=小里樹