【チロリアンハットはどこの国?】世界の国について思い浮かべる安直なイメージを一変させる絵本

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

「日本」と聞いてイメージすることを外国人に聞くと「ゲイシャ フジヤマ サムライ ニンジャ スシ テンプラ」と答えるのは昔の話…そう思っていたのだが、そのイメージはまだまだ根強いのかもしれない、という話を最近耳にした。

オーストリア人男性と結婚した日本人女性が久々に日本へ帰ることになり、行きたい場所があるかと夫に聞いたところ「ニンジャ居酒屋に行きたい」と答えたそうだ。普段は控えめで、自分の意見を押し通したりしない穏やかな人だそうだが、妻が「美味しい和食なら他にもたくさんある」と言ってもまったく譲らなかったという。ちなみにオーストリアのテレビ番組でその忍者をテーマにした居酒屋が紹介されていたのを見たのがきっかけだったそうだが、筆者が都内某所にあるというその居酒屋のホームページを見てみたところ、日本人が見るとちょっと違和感を感じるような店だった。確かにニンジャ(断じて漢字の忍者ではない!)が出てくる居酒屋は面白いとは思うが…。

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しかし逆に考えてみて欲しい。日本人だって妙な先入観や刷り込みで外国を見ていることがある。スイスといったらアルプスの山々にアルプホルン、ドイツといったらビールにソーセージ、ロシアといったら寒くて頭にスカーフを巻いたおばさんとマトリョーシカ、ルーマニアといえばドラキュラ、そして忍者居酒屋に行きたいと言う男性の出身国オーストリアといったらモーツァルトにウィンナコーヒーで、さらにアフリカは大陸のどこへ行っても野生動物のライオンやゾウがいるなんてざっくりとしたショボいイメージを持ってないだろうか? 「そんなにヒドくないよ」と言う人でも案外と知識が曖昧だったりすることがある。例えば「チロリアンハット」は、どこの国の帽子か知っているだろうか?

そんな曖昧なイメージを払拭してくれるのが、ポーランドの絵本作家夫妻が世界42カ国(北極や南極もある)を調べ、絵地図にした縦約38cm×横約28cmという大型の絵本『MAPS 新・世界図絵』(アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ:作・絵 徳間書店児童書編集部:訳/徳間書店)だ。見開きごとにひとつの国が紹介されていて、国土が大きく描かれ、そこにその国の正式名称、国旗、言語、人口、面積、首都や都市名、山・川・湖・海などの名前、産業や農作物、その国に多い人の名前、民族衣装、建物、名所旧跡、美術品、食べ物、名産品、出身の有名人、その国が舞台となった作品、スポーツ、生息する生き物や植物など数多くの情報がイラストで紹介されている。雰囲気としては、観光地などにある案内版のような感じというとイメージしやすいだろうか。

地図と旅行が大好きという夫妻が「何時間でも、何度でも、ながめていられる本を作りたい」という思いから作られたという本書。制作には丸3年をかけ、イラストは4000以上、同じ図柄でも場所が違えば別の絵として描き直していて、さらには古地図のような風合いの紙を使用したり、各ページを囲んでいる枠の模様も国ごとに変えたりするなど、細かいところまでしっかりと作りこまれている。夫妻は日本語版の仕上がりも何度もチェックし、日本語で表記された各国名はすべて手描きしたという著者も納得の仕上がりで、子どもはもちろん、大人も楽しめる…というか世界の自然や文化がいかに多様で素晴らしいか、ということに大人の方が夢中になってしまいそうな楽しい絵本だ。

ちなみにチロリアンハット、本書で探してみるとオーストリアにあった(スイスやドイツなどと勘違いしてませんでした?)。そして来日したオーストリア人男性は、ニンジャ居酒屋を満喫したそうだ。グローバル化する現代は民族紛争などが頻発しているが、まずは興味を持って他の文化に触れることが大事で、相互理解はそこから、ということを再確認した絵本だった。

文=成田全(ナリタタモツ)