借金か風俗か自死か、役所に頼るか…100社不採用の『失職女子。』が語る“生きるために選んだ生活保護という道”(後編)

社会

更新日:2014/10/30

『失職女子。私がリストラされてから、生活保護を受給するまで』(大和彩:著、小山健:イラスト/WAVE出版)

『失職女子。私がリストラされてから、生活保護を受給するまで』(大和彩:著、小山健:イラスト/WAVE出版)

 順風満帆に働いていた女性が、病気になったのを機に休職。その後、転職先を探すも、100社不採用となり、最終的に選んだ道は「生活保護」だった――とかく、「甘えてる」「努力が足りない」などと言われがちな生活保護受給者だが、生活保護を受給するまでの過程やそのノウハウが書かれた『失職女子。私がリストラされてから、生活保護を受給するまで』(小山健:イラスト/WAVE出版)の著者、大和彩さんは、生活保護申請が通ったことで「私なんかでも、生きていていいんだ……」という実感がじわじわ心に沁みわたっていったという。転職活動に関わる苦難について語ってもらった前編に続き、後編では、貧困に陥った女性が性風俗に行きやすい理由、誠実な区の福祉課やハローワークの対応などについて聞いた。

>>先に前編を読む

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■性風俗の情報に比べて、生活保護に関する情報が少なすぎる

――大和さんは家賃が払えなくなり、総合支援資金貸付や住宅支援給付、生活保護を受給しながら、ずっとハローワークで仕事を探し続けていらっしゃいますが、一方で生活保護受給者や貧困に苦しむ人たちに対して「努力が足りないから」という偏見がいまだ根強い風潮をどう思われますか。

大和:その点、私は無職になる時、友達がひとりもおらず、親とも縁を切っていたので、不用意な言葉を聞かずに済んだのは良かったと思います。というのも、最初に病気で正社員の仕事を辞めなくてはいけなかった時に、「ダメもとでここ受けてみなよ」とか、「高望みしすぎじゃないの」とか、「上を見てもキリがないんだから、もっと悪い条件の人もいるんだから」とか、そういった言葉をSNS上で投げかけられて、とてもグサッときた経験があったので、それ以降、プロ以外には誰にも相談しないと決めていたので。

――著書の中で触れている“プロ”のお二人、役所手続きのさまざまな相談にのってくれる区の福祉課の諸葛孔明子さん(仮名)も、ハローワークで一緒に仕事を探してくれるハローワー子さん(仮名)の大和さんへの対応は、とても親身でメディアで取り上げられる役所仕事のイメージとはかけ離れています。

大和:諸葛孔明子さんは、ありとあらゆる制度やシステムを熟知していて、今まで出会った社会人の中で一番頭がいいと思います。ふんわりしていて優しくて、ベテランならではの安心感があります。一方、ハローワー子さんは、テキパキとしていて、率直なアドバイスをくれます。真実を言われてつらい時もあるんですが、言ってもらったほうが無駄な交通費を使わなくても済むので、とても助かっています。私がいた業種だと自分より年上の女性が働いていることがほとんどなかったので、それを知ることができたのもよかったです。

――女性の失業と性風俗、売春などの相関関係についても触れられていますね。

大和:売春をしないというのは、強く思わないと自分自身、本当に門を叩いてしまいそうでした。そっちへ行かないための材料を自分の中に準備したとも言えます。以前、読んだ西原理恵子さんの著書で「自分の娘には売春させない」と書いてあったのが大きかったです。あれだけいろいろな経験をされている西原さんが言うのだから、そうなのだろうと。
日本って、生活保護に対するネガティブなイメージがあるから、生活保護を受けるくらいなら、女性であれば性風俗で働けよという無言のプレッシャーがある気がします。事実、セックスワークがセイフティネットみたいな意見も最近よく聞くけれど、そもそもそれはおかしいと思うんです。それをセイフティネットと思わなくていいんじゃないかな。性風俗業の人たちがチラシやティッシュ、ネットを介して発信する働く情報はたくさん入ってくるけど、生活保護に関する情報は何もない。だから自分に適性はないのに、なんとなくそちらに流れてしまう人があとを絶たないのではないでしょうか。

――生活保護を受ける際に大和さんが一番気にしていたのが、親御さんへ通知がいく“扶養照会”でした。原則義務付けられているようでしたが、大和さんの場合、扶養照会は免れることができたんですよね。

大和:私は親から虐待を受けていて、とにかく親へ連絡が行くことだけは避けたかったので、「扶養照会を免れます」という一文を探して、あらゆる本を読みました。そして、ある本を開いた時、はっきりとは書かれていないのですが、「本当は抜け道があるよ」と暗に示しているような一文を見つけ、そこに賭けてみようと思ったんです。それでダメなら支援団体に連絡して、一緒に説得してもらうつもりでしたが、結果的に私は扶養照会を免れることができ、現在、生活保護を受けることができています。生活保護申請がおりた時は、本当にほっとしました。私は生きて、最低限度の生活を営んでいいんだと思いました。

■正直に生きていこう、生きていきたいと思う

――大和さんにとって、理想の働き方とは?
大和:私、最初の会社を病気で辞めて以来、ずっと病気だって隠しながら働いていたんです。誰にも言わず、嘘をつきながら、うまいことやっていこうというスタンスだったので、そういう病気であることを受け入れつつ働こうという発想はありませんでした。だから、これからは、もっと正直に生きていこう、生きていきたいと思います。

――最後に、どんな人に読んでもらいたいと思いますか。
生活保護を受けながらでも、働くことは可能ですし、自立するための就職活動もできます。今のお給料では少ないから、足りない分だけを生活保護で充当する、という考え方です。ちょっと前まで普通に働き、税金もきちんと納めていた人が、ある日突然、職を失い、生活保護にしようかどうしようかと悩んだ時に、同著を参考にしてもらえたらとてもうれしいです。あとは、学校では生活保護のことを習わないし、ネットにもこういった情報はほとんどないので、小学生にも読んでもらいたいですね。

 リストラに遭い、失業保険が出ないと知った時は、「もう死ぬしかない」とまで思いつめた大和さんにとって、行政に救いを求めて、役所の職員に実際に手を差し伸べてもらえたことは、とても大きなできごとだったという。「今の願いは、自分の生活を立て直して、支えてくれた人たち、そして社会にも少しでもお返しできるような人生を歩むことです」――生活保護に命を救われたからこそ、借金や風俗や自死に走る前に、より多くの人たちに生活保護申請について知ってもらいたい。『失職女子。』は、そんな彼女が発する実践的アドバイスと、生々しい人間ドラマが詰まった良書である。

取材・文=日暮葵