「バカになれる男」を気取る男は「バカになれない男」をバカにするけど、それってどうなの?…という話

暮らし

公開日:2014/11/13

 人は、自分の見たい風景しか見ようとせず、信じたい情報しか信じないもの。そして、つい自分が慣れ親しんだ業界のものさしで他業界をも計りたがる。とはいえ、知らない業界について語るのであれば、謙虚さは忘れずにいたいもの。

 モテ本ブームの立役者、潮凪洋介氏は、近著『「バカになれる男」の魅力:仕事、金、女 図太く生きる知恵』(三笠書房)の中で、「仕事、金、女に苦労したくなければ、バカになれ、はみ出せる男になれ」と主張する。しかしながら、これがなんとも甘酸っぱいのだ…。出版や広告業界の“モテ”や“常識”を、まるで“社会の常識”“ビジネス全般”のごとく語ってしまっているため、青くさい印象がぬぐえない。

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 無論、同著や著者を全面否定しているわけではない。事実、潮凪氏の筆は、3章の「【男と女】一生、モテ続ける男のルール」では、いきいきしているように感じる。“「想定通り」のコースの上にひとつ「普通ではない体験」をトッピングしよう”、“エロ話をカラッと話せる男はセクハラ扱いされない”といった内容は説得力があり、新たな発見も多い。それだけ多種多様な女性のデータが、脳内に蓄積されているのだろう。モテブームの全盛期を築いた同氏の力量を感じる。

 ところが一転、仕事に関する章になると急に歯切れが悪くなる。その要因は顕著で、ビジネスを語るには根拠やデータが極端に乏しく、要するに視野が狭く、リサーチ力に欠けている。

 例えば、“何から始めたらいいかわからない人は、「誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで残って仕事に没頭する」ことから始めてみればいい”の行は、時代錯誤もいいところ。米フェイスブックの女性最高執行責任者(COO)シェリル・サンドバーグ氏が午後5時半には退社して6時には子供たちと夕食を楽しむことが日本でも大々的に取り上げられたり、安倍内閣による残業代ゼロ政策が賛否両論を呼んでいたりする今、「朝一で来て、一番最後までいる」ことに、価値を見出す企業も個人もそういない。

 さらに、声の小さな男性や、飲み会で芸のできない男性、マナーをきっちり守る男性を同著の中で「正すべきもの」と説教しているのだが、みんながみんな、商品であるアイドルに手を出す雑誌編集者や、取引先の広報にすぐちょっかいを出すような広告代理店男のノリを持ち合わせる必要はない。調子のよいチャラ男より、寡黙で実直な男性のほうが、いざという時に頼りになるケースは少なくない。ダイバシティが求められる現在、なぜ皆が皆、昭和のかほりがプンプン漂う営業系男にならなければならないのか。

 声は小さいけど優秀なエンジニア、宴会芸はしないけど知識豊富な法のエキスパート…結構じゃないか。それを声が小さいとか、飲み会で芸をしないとか、合コンのノリでビジネスコミュニケーションを語られても、「いい加減、なんでもかんでもモテ基準で推しはかるのやめたら」と嘆きたくなる。

文=山葵夕子