ノーベル賞・中村教授への面会拒否がお手本! ビジネスで使える「大人語」をマスターしよう

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更新日:2014/11/21

 「大人語、怖い…」。先日ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏と、古巣である日亜化学工業の間で繰り広げられた応酬に、この感想を抱いた人は多いのではないだろうか。大人社会、主にビジネスの場で使われる“大人のもの言い=大人語”の、ある意味で力強さを感じさせる一件だった。

 報道によると事の発端は11月3日、記者会見で中村氏が日亜との関係改善を希望していると語ったこと。同氏は2001年に青色発光ダイオード(LED)の発明対価をめぐって同社を提訴し、最終的に約8億4000万円を受け取って和解している。我々外野が聞いてもかなりのドロ沼と推察されるが、過去を水に流して和解すべく、同氏は日亜の小川英治社長との面会を希望したという。

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 そのこと自体も「勇気あるな」と驚いたが、翌日報道された日亜の回答に震撼した。中村氏は「15年前に弊社を退職された方」、面会については「貴重な時間を弊社へのあいさつなどに費やすことなく、物理学に大きく貢献する成果を生み出されるようお祈りしています」(参照)。要は完全拒否だ。

 これほど謙虚な文面で「会いたくない」と強く主張する技術、すごい。伝え方次第では「大人げない」と捉えられかねない対応も、大人語を使えば有無を言わさぬ力が生まれる。自分は社会人だが、躊躇いなくこんな言い回しができるだろうか? なんか薄ら寒くて自分で笑っちゃいそうだな…と不安になったのは私だけではないはず。そんな方におすすめしたいのが『できる大人のモノの言い方大全 LEVEL2』(話題の達人倶楽部/青春出版社)だ。

 本書はタイトルの通り、主に仕事などのオフィシャルな場面で使える“大人として恥ずかしくない”言い回しを教えてくれる。たとえば、貸したものを早く返してほしい時は「前にお貸しした○○はお役に立っていますか」。これならカドが立たず、目上の人にも言いやすい。また「人間関係がマルくなる」言い換え案として、「ものたりない」を「もう一工夫欲しい」、「目先のことにとらわれる」を「集中力がある」、「自分勝手」を「自分の流儀を持っている」と言い換える。褒め言葉のバリエーションも豊富に載っているので、これ一冊読めばコミュニケーションにおいて重要な“褒めスキル”が格段に上がりそうだ。

 第1弾『できる大人のモノの言い方大全』をはじめ、既刊5タイトルに新たな情報を加えて再編集された本書は、旧タイトルに比べてより現代社会での実践を意識した編集がなされている。その一つが「タブー語」の強化。「社内ではよくても社外では使えないセリフ」「ほめているようでかなり失礼な日本語」など、うっかり使ってしまいがちなNGワードをチェックできる。たとえば「力作ですね」は、「努力は認めるが、内容は大したことがないですね」の意。これ、褒めているつもりで口にしたことはないだろうか? 私はある。本書を読んでおけば、こうした無礼も未然に防ぐことができる。

 また、会話のつなぎに便利なフレーズも満載だ。話すことがない時の定番「季節のあいさつ」は、1月から12月までの使えるフレーズを月ごとに収録。4月の「花散らしの風が吹いてますね」をサラッと言うには訓練を要しそうだが、こうした台詞を気負いなく、心の中で茶化したりせずに発せる大人になりたいと心から思う。

 さて、収録されたすべての大人語とその解説に目を通すと、本書が定義する「できる大人」像が浮かび上がってくる。それは“謙虚で、ポジティヴで、他人に対して寛容な人”と言って良さそうだ。たとえば、引き受けるつもりでも一度は「ご迷惑をかけますので」と役職を断る謙虚さ。2月の雨を「一雨ごとに暖かくなる」と捉えるポジティヴさ。相手の間違えを指摘する際「私も間違えそうになったのですが」と前置きする寛容さ…。特に“謙虚さ”は、全フレーズに通底する絶対条件らしい。

 こうした条件と照らし合わせてみても、やはり日亜のコメントは大人として完璧だったと言えるのではないだろうか。とことん謙虚に見せながら、自社の姿勢を貫いたその手腕も含めて参考にしたい。

文=ハットリチサ