雑誌『オトカルチャー』総合PとDJが語る秋葉原系DJイベントシーンの今【国内外で熱狂!】

音楽

更新日:2014/11/22

 アニソンなどを愛する人たちが集う秋葉原系DJイベントが盛り上がりをみせている。一部ではアニソン系クラブイベント(通称・アニクラ)と称される場合もあるが、さいたまスーパーアリーナなどの大規模な会場で行われる『EXIT TUNES ACADEMY』や、中野を舞台にした『Re:animation』などの野外イベント、また、収容規模100人ほどの大小さまざまな場所で、毎週のように日本各地でイベントが開かれている状況だ。

 そして、シーンの盛り上がりを受けて今年10月、雑誌『オトカルチャー~WORLD ANIME FLOOR GUIDE~(以下、オトカルチャー)』が発刊された。今回は秋葉原系カルチャーをテーマにした様々なプロモーションを手がける同誌の総合プロデューサー・伊藤翼さんと、クラブシーンで実際にプレイされているDJシーザーさんに、秋葉原系DJイベント及びクラブシーンについてお話を伺った。

秋葉原系DJイベントでカリスマ的な人気を誇るDJシーザーさん(左)と、雑誌『オトカルチャー』の総合プロデューサーなどを務める株式会社コラボ総研の代表取締役・伊藤翼さん

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■国内外で広く注目を浴びる秋葉原系DJイベント

――今、雑誌『オトカルチャー』が発刊された理由は何ですか?

 伊藤「昨年春頃にプロジェクト自体はスタートしました。そのきっかけとして、巻頭特集にもあるとおり秋葉原系の音楽イベントが規模や集客力を増してきたことがあげられます。例えば、ニコニコ動画で人気なアーティスト中心の定期イベント『EXIT TUNES ACADEMY』がさいたまスーパーアリーナ(直近では2014年8月3日 開催)で過去3度も開催されており、北海道から沖縄までをみれば、毎週のように規模を問わず日本のどこかでイベントが行われています。近年の音楽業界でいえば、毎週どこかで100人単位で集客できるジャンルはあまりみられず、ここに注目すべきだと考えました」

――日本だけではなく、海外でも盛り上がりをみせていますね。

伊藤「フランスの『Japan Expo』やイギリスの『HYPER JAPAN』はもとより、台湾や香港、バンコクなどアジア圏でも秋葉原系の音楽イベントが進出しています。しかし、その情報を伝える媒体がほぼ存在せず、。今日同席しているシーザーさんなど、秋葉原系DJをうたう方たちが招待されるまでになっているにも関わらず、あまり注目されていないことへ疑問を感じていました。そこで、実際に出版社の方にも現地の盛り上がりを体感していただき、企画を徐々に具体的な形へと発展させていきました」

――雑誌の手ごたえはいかがですか?

伊藤「評判は上々です。表紙に、タカハシヒロユキさんが描いた初音ミクのイラストをあしらったことから、秋葉原系DJイベントに足を運んだことのない方にも手に取っていただき“世の中にこういう文化があったんだ”と新鮮な感想をいただいています。また、声優の置鮎龍太郎さんや保志総一朗さん、ニコ動でボーカロイドの楽曲を作る方々にもインタビューしたことでそれぞれのファンの方々から注目していただき、女性向けのイベントやDJの機材紹介なども織り交ぜる等したことで、秋葉原系カルチャーの根底を知るという意味でも“参考になりました”という声をいただいています」

■ジャンルの垣根を越えはじめた秋葉原系カルチャー

――秋葉原系DJイベントの現状をどのように分析しますか?

伊藤「多様化していますね。例えば、純粋にアニソンや各作品のファンが集うだけのイベントだけではなく、アテレコをしてみたり、コスプレをした参加者たちがミュージカルを演じたりと楽しみ方も多岐にわたっています。雑誌に視点を移せば、誌面の多様性にも耐えうるほどのコンテンツが生まれてきた。ニコニコ動画の歌い手や踊り手の方などを主役に据えたイベントも増えてきています」

――秋葉原系DJイベントの客層をどうみられますか?

伊藤「イベントのジャンルにより、本当に様々ですね。男女それぞれに特化したものもあり、すごく特殊な所ではクルマ関係の作品の曲だけに特化したイベントがあるのですが、アニメの話より車種やサスペンションの話で盛り上がっていますね」

――音楽シーンとしての秋葉原系カルチャーをどう見ていますか?

伊藤「2009年に秋葉原のDJバー『MOGRA』がオープンしたのが一つの分岐点だったと思います。のちにUSTREAMで『アニソンインデックス!!』(『MOGRA』で毎月第3土曜日に開催されているアニソンクラブイベントの一つ)の視聴者がDJとしてデビューするケースが増え、やがて、TV局などメジャーシーンも取り上げるようになりました。最近では、「FamilyMart ASIA COLLECTION BIG STAGE 2014」(2014年10月 開催)でファッションと秋葉原系DJイベントが融合したりと、他ジャンルに組み込まれる場面も増えてきましたね。音楽がどのジャンルとも融合しやすいテーマだったという背景もあると思います」

中野駅前を舞台に繰り広げられる屋外イベント「Re:animation」の様子。3000人規模の開放感溢れるスペースで観客が熱狂する。

■DJブースから見た秋葉原系イベントの熱狂と変化

――実際に、DJとしてプレイされる中でシーザーさんは盛り上がりをどう感じていますか?

シーザー「クラブシーンの中でも、とりわけ盛り上がっている印象があります。お客さんの熱量がとにかくすさまじいですね。年間おそらく100箇所以上の現場でプレイしていますが、クラブシーンでよくイメージされる“気取って楽しむ”というわけではなく、純粋にリズムに思うがままに身を任せる人たちをたくさん見かけます」

――実際に現場でプレイするDJの広がりもありますか?

シーザー「あると思います。機材の進化により、プレイの選択肢が広がったのがその理由のひとつでしょう。過去のターンテーブルを回すというスタイルから、ノートPCやスマホ、タブレットさえあればできるようになり、さらにコントローラ(ターンテーブルのようにスクラッチなどの操作をするための機器)も揃えれば誰でも本格的にはじめられるようになりました。当初は10万円以上かかっていた初期投資も、数万円ほどで済むようになりました。また、音楽がデータで扱われるのが一般的になったことで、従来のようにレコードやCDのいわゆる“盤”を持ち運ぶ手間がなくなったのも強く影響していますね」

中野駅前を舞台に繰り広げられる屋外イベント「Re:animation」の様子。3000人規模の開放感溢れるスペースで観客が熱狂する。

■リアルタイムに共感が生まれる海外の秋葉原系カルチャー

――イベントを眺める中で、日本と海外の盛り上がりに違いはみられますか?

シーザー「違いはあまり感じません。よくいわれる『ドラゴンボール』の主題歌はもう必須科目のような感じで(笑) 海外で僕がかける曲もほぼ全曲、みなさん口ずさんでいます。日本人が洋楽を歌うのとまったくいっしょですね」

伊藤「一例として、ニコニコ動画で吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』のトランスバージョンが流行っていた時期があるんですが、海外でおそらく日本語が分からないと思われる数百人が「俺らこんな村嫌だ!」と叫びながら腕を振り上げているんですよ(笑)もう、世界の吉幾三であり、世界共通言語ですよね。秋葉原系DJイベントという括りでアニメもJ-POPも関係なく盛り上がれるというのは、特殊な文化だというのを肌で感じました」

――欧米でも日本の作品は認知されていますか?

シーザー「『涼宮ハルヒの憂鬱』の主題歌『ハレ晴れユカイ』も寸分たがわずみんなが踊れたり、みなさん日本のアニメをめちゃくちゃ見てます。今年の『Japan Expo』でも『Free!-Eternal Summer-』など比較的新しい作品が人気だったり、次の時代へ進んでいますね」

伊藤「最新のアニメもみなさん日本と同じ時間軸でリアルタイムにチェックされていますね。コラボ総研ではアニメやゲームのプロモーションも行いますが、日本企業のニューヨークプロモーションの際、日本でその当時放映されていたアニメ作品の立て看板を店舗に設置しクリアファイルを商品特典に付けたときがあったんです。そのときも問題なく現地のファンたちが反応して集まってくれましたね」

――最後に、今後の秋葉原系DJイベントのシーンをどう描きますか?

伊藤「世界共通言語という話もありましたが、このカルチャーは国境だけではなく、性別や世代もすべてを超えられる文化だと思っています。実際に、野外イベントでヒップホップのイメージそのままの格好でブレイクダンスをするおじいちゃんを見かけますが、孫と同じ世代と一緒に楽しめるというのは秋葉原系DJイベントだからこそ見られる光景だと思うんですよね。リズムに乗り同じ空間で参加者も一緒に楽しめる。様々なハードルを超えることができるこのジャンルは今後も発展していくのではないでしょうか」

『オトカルチャー~WORLD ANIME FLOOR GUIDE~』の第2号は2015年1月9日に発売予定。また、雑誌連動イベント「オトカルランド」が12月14日に開催されるので、公式サイトをチェックしつつ、シーンの盛り上がりをぜひとも肌で体感してもらいたい。

◎オトカルチャー|アニソンDJ・ボーカロイド・ネットミュージック専門雑誌
◎株式会社コラボ総研
◎DJシーザー 公式アカウント

取材・文=カネコシュウヘイ