○○がウマければ間違いない! おいしい立ち食いそば店の見分け方【おすすめ店ガイド付き】

食・料理

公開日:2014/11/27

   

 「師走」「年越し」の声が聴こえてくると、条件反射的に食べたくなるのが、そば。職人による手打ちのせいろをたぐるのも粋だが、時間がないときにサッと食べられて、しかも財布にやさしい価格、味もハイレベルな立ち食いそばをズズッとすするのも、また至福のとき。日本が誇るファストフード、立ち食いそばに魅せられ、都内40店舗を『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』(マイウェイ出版)にまとめた本橋隆司さんと、東京・杉並区を走る環七通り沿いで待ち合わせた。

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 本橋隆司さん(以下、本)「立ち食いそばは、駅周辺だけでなく幹線道路添いにもたくさんあるんですよ。本書では〈ロードサイド編〉として6店を紹介していて、ここ『江戸丸』さんも、そのひとつ。タクシードライバーや、早朝から車で現場に向かう職人さんたちのために朝5:00からオープンしています。お腹にしっかりたまるよう、そばだけでなく、具がぎっしりつまったおにぎりも充実しています」

 歩道に開かれた立ち食いカウンターの様子を、10分程度見ているだけでも、路肩に車を駐車した人たちがひっきりなしに訪れる。本橋さんのオススメは、春菊天そば。衣が薄く深い緑色がしっかり見える天ぷらが、太めの麺と甘辛つゆの上に鎮座している。最初はさくっとした歯ごたえの天ぷらが、つゆと混ざりあってトロトロの食感に変わっていくのも、味わい深い。

■『江戸丸』
東京都杉並区高円寺南5-32-4

――都内には数えきれないほどの立ち食いそば店がありますが、おいしいお店の見分け方はありますか?

本「お客さんが入れかわり立ちかわり途切れないお店は、間違いないですね。あとは、古くからあるお店。その場所で長い年月ずっと支持されてきたってことだから、信頼できます。立ち食いそば店は1964年の東京オリンピックのころにでき始め、高度経済成長でモーレツに働くビジネスマンたちのニーズに応えて増えていったんです。そのころから続いているお店も数多くありますよ。新規店もできるのですが、日本人はそばを食べ慣れているから、求める味の基準もそれなりに高い。最近は業務用のつゆや冷凍てんぷらのクオリティもあがっていますが、ひと手間加えないと味が薄っぺらくてすぐにバレちゃいます。店として生き残るのが、意外とむずかしいジャンルですね」

――たしかに、天ぷらが冷凍モノってわかると、麺やつゆがおいしくないのと同様にがっかりしますね。

本「天ぷらがおいしいお店は、ほかのメニューも全部おいしいですね。手間がかかるものをそれだけ丁寧に作ってくれているというのは、ありがたいことです。この『江戸丸』さんの春菊天のように、衣が薄いところもあれば、つゆをたっぷり吸うよう衣を厚めにしているところもある。好みや、その日の気分で食べ分けるのもいいですね」

*    *     *

 続いて、中央線に乗って神田に移動。このエリアは本書では〈東京セントラル編〉として15店が収録されている。本橋さんが案内してくれたのは、24時間営業の『天亀』。明るくて気さくな女性店長の「いらっしゃい!」という声に迎えられて注文カウンターに立つと、厨房からは天ぷら用の野菜を切る包丁の音が聞こえてくる。

――ここも〈天ぷらがおいしい店は、全部おいしい〉の鉄則にあてはまるお店のようですね。

本「そのとおり! オススメはゲソ天。あと、名物のいなり寿司も忘れずに」

――本書でも、サイドメニューのご飯モノに熱い視線が注がれていますね。

本「そこにお店の個性が強く打ち出されますからね。ご飯モノに力を入れているところに、ハズレはないですよ。単価が高い米に、さらに仕事を加えて提供し、お腹いっぱいになってもらおうっていう気持ちがうれしいじゃないですか。本書でも紹介していますが、カレーにやたら力を入れたお店もあります(笑)」

『天亀』のゲソ天は、たまねぎとゲソのバランスがよく、甘めのつゆと実に好相性。いなり寿司は100円とは思えないビッグサイズだが、つゆ出汁用昆布を細かく切ったものや、ショウガ、ニンジン、シイタケ、ゴマがたっぷり混ぜ込まれたご飯がおいしく、ぺろりと平らげてしまう。格別の満足感だ。

■『天亀』
東京都千代田鍛冶町1-7-9

本「本書で紹介した40店からあと1店加えてBEST3とするなら、最後は相模大塚の『あさひ』さん。浄水器にこだわって、つゆをおいしく仕上げているし、〈しらす丼〉〈スパムおにぎり〉などご飯モノのラインナップも独特。ここも客層はドライバーが中心ですが、おかみさんがお客さんの健康を祈りながら作っているので、おいしいだけじゃなくてあたたかいお店です」

――立ち食いそばというと、職場の近くだったり、電車移動の乗り換えのときに入りやすかったり、身近なところにあるお店にばかり行きがちですが、ここで紹介されている40店舗はわざわざ行きたくなるところばかりですね。

本「街の個性とマッチしたお店が多いので、いつもと違う街で食べると新鮮ですよ。たとえば問屋の多い浅草橋や人形町は、仕入れにくる業者さんたちが短時間でサッと食べられるということで立ち食いそばが重宝されたため、店舗数もとても多いし、つゆが濃い系からアッサリ系まで味のバリエーションも多彩。立ち食いそば天国ともいえるエリアです」

 忙しくて時間はないけどおいしいものを食べたい人も、わざわざ足をのばしてきた食通も、同じくあたたかい湯気と出汁の香りとで迎えてくれる立ち食いそば店。その光景を思い浮かべた途端、じわりと口内に唾液がにじんできた人にはマストバイな1冊だ。

文=三浦ゆえ