pixiv閲覧数550万以上の話題作!「死んで生き返った」ことで見えた景色とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

かすり傷がひとつできたくらいで、死への恐怖に怯えた幼少時代と異なり、大人になると、多少具合が悪くても、「まぁいいか」と自分の体を大事にしなくなる。「健康診断に引っかかった」と笑っていっていられるのもいつまでだろうか。誰であろうと、人の傍には死が寄り添っているもの。そう陳腐に言われても、どうもイマイチピンと来ない人も多いに違いない。だが、どんな健康本よりも自身の命について、そして、自分の健康について考えさせられる本が今、話題となっている。

pixivで550万以上の閲覧数を叩き出した村上竹尾氏著のWEB漫画『死んで生き返りましたれぽ』がついに書籍化された。これは著者が心肺停止状態になり、そこから回復するも、長い闘病生活を送ることとなったその記録だ。村上氏は、糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシス、敗血症、横紋筋融解症、急性腎不全、脳浮腫、高アンモニア血症などなど、これでもかというほど、重症疾患を併発していた。作中で、村上氏の友人が本人に「これだけの病気をしてICUに入って普通の出口から出られるってすごいことやねん。めったにおらんねん」と、語りかける場面があるが、村上氏が少しずつ、前進・後退を繰り返しながらも、回復していくさまはあまりにも壮絶である。しかし、本人は、自らの身に起きたことを「ごくごくありふれた話」とした上で、「だからこそ、そのときの気持ちを描いておこう」と思ったと綴る。…この本は誰にとっても決して人ごとではない闘病記。後悔しない生き方をするために読むべき作品といえるかもしれない。

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村上氏は、病院で目覚めた時、自らの状況が一切理解できなかった。視界は混濁し、何が現実でどれが現実ではないのか、それすら分からず、身体も動かず、口も聞けなくなっていた。次第に、本人は、自宅のトイレで倒れて病院に運ばれたこと、一時は心肺停止状態となり、2週間も意識が戻らなかったことを朦朧とした意識の中で聞かされていく。そういえば、2年前から体調が悪く、眩暈や発熱、寝込むことは日常茶飯事だったが、絵描きとしての仕事を優先し、太陽にも当たらず、家に引きこもっていた。世の中に失望し、死にたいとすら思っていた。しかし、死の淵を体験した本人は、当たり前の幸せ、生きるということに目を向けるようになる。

この本が、他の闘病記と一線を画するのは、徹底的に著者自身が経験した世界を描き出すことに集中しているためだろう。本人が見つめる世界はクリアーに全てがみえるわけではない。意識を取り戻しても、人影が本人に語りかけてくるのを感じるだけ。手、口の動きが見えるだけ。表情もしっかりと識別できるわけではない。その所作一つひとつに対して覚えた感情を村上氏は文字と瞳の動きだけで表現している。一コマごとに身体のパーツを描き出すだけで、闘病中の著者の世界すべてが再現している。見えないということ、何が現実であるかわからなくなる意識混濁の状態へ著者が感じた恐怖を読者も追体験できるのである。

しかし、意識を取り戻した村上氏は、そこから日々順調に回復していったわけではなかった。ICUから出て一般病棟に移ってから3日後、容態は悪化。脳浮腫によって再び昏睡状態に陥ってしまう。どうにか回復して目を覚ましても、本人の精神は崩壊。全く目が全く見えず、記憶も喪失、幼児退行が起こり、あまりにも暴れるのでベッドに括り付けられた。その状態から脱しても、脳が回復に向かった時の誤作動が本人を苦しめた。目の見え方がおかしい。ものの輪郭は崩れ、人の顔には無数の線が入り、私の顔を覗きこむ人の顔から口や目が逃げ出していく。病室の外を行き交う人々は全員上半身がなく、足だけだったし、看護師の顔は塗りつぶされたようにのっぺらぼうだったし、色も認識できなかった。

そんな、何が現実なのか混乱している本人の視点を体験するにつれて、本人を取り囲む人々の存在の影響力の強さを感じる。

「あんたが絵が掛けなくなって安心したわ。もう絵のことは忘れなさい」

ベッドに寝ている村上氏の上をいろいろな言葉が飛び交うが、意識が混濁している本人には、すべての意味が分かるわけではない。だが、頭がおかしくなっても、絵を書き続けて身体を壊した自分を非難する声は容赦ない言葉はダイレクトに届き、悪影響をあたえる。逆に、一切、村上氏のことを責めずに、語りかける弟妹たちや医者、看護師の声に本人は救われていく。

「本当のところあなたがどういう人でどういう気持ちかはわからないですが、でも、今生きているのは、本当ですから」

「大丈夫だよ、どんな人にも生きる道はあるのだから」

闘病する者の心を知るにつれて、看病する側として、言葉の大切さを感じさせられる。

この本を読めば読む程、今、当たり前にこうして息をしていることに、感謝しなければならないと思えてくる。生きるとは何だろう。人の温かさとは何だろう。当たり前の幸せとは何だろう。その答えは壮大すぎてわからないが、自分の人生について、「命」について改めて考えることができそうな1冊だ。

文=アサトーミナミ

『死んで生き返りましたれぽ』(村上竹尾/双葉社)