日本で緊急復刊、米では『インターステラー』製作者の手でドラマ化! エボラの恐怖を伝えるノンフィクションが話題

社会

公開日:2014/12/8

   

 エボラ出血熱の感染が史上最悪の規模で広がっている。過去のエボラ禍では最大で300人止まりだった犠牲者の数も、12月2日現在、西アフリカの3カ国で6000人近くに。感染者数も1万6000人を越えた。

advertisement

 飛行機など交通網が発達した今、日本にも飛び火する危険は十分に孕んでいる。さまざまな報道から想像力を働かせ、それなりに恐怖心を覚えたものの、アフリカという遠い国々で起きた想像をも超える事態にどうしても実感が湧かない。『ホット・ゾーン 「エボラ出血熱」制圧に命を懸けた人々』(リチャード・プレストン:著、高見浩:訳/飛鳥新社)を読む前までのことだ。20年前に出版された本書は、今回のエボラ大流行に伴って緊急復刊された。

 ノンフィクションとは思えない緊迫感とドラマの連続。のめり込んでページをめくった。遠いアフリカの出来事も目の前で起きたことのように生々しく描かれている。何よりも、報道などでは詳しく伝えられない犠牲者のこと、関わった人々の心理描写などが、著者の徹底した取材の元、再現されている。

◆ よみがえる最初の犠牲者たち

 感染し始めたころ、最初に医師たちを「世界の終わりが近づいた」と思わせたのはエボラではなくマールブルグウィルスだ。エボラウィルスと共にフィロウィルス科に属する致死率の高い病原体で、症状も似ているという。感染した人間はどう“崩壊”するのか。本書によると、意識は失われ、無表情で赤い目、頭髪はまとまって抜け落ち、皮膚はただれ、わずかな力を加えただけでちぎれてしまう…。まるでゾンビを思わせる凄惨さが目に浮かぶ。

 マールブルグに最初に感染した犠牲者は、シャルル・モネ(仮名)というフランス人。孤独で動物好きのモネは、野生のサルに手から餌をやることができるほどアフリカの大自然に慣れ親しんでいたという。彼の足取りや病に冒される様子は、繊細でむごたらしい。

 エボラが最初に確認されたのは1976年。犠牲者はスーダンのヌザラで働く勤め人だった。寡黙で目立たない男性で、写真すら残されていない。コウモリが巣くう天井の下にあるデスクで仕事をしていたという。この時の感染で284名のうち151名が死亡したという記録があるが、爆発的に感染を広めたのは彼の近くに座っていた同僚とされる。最初の地味な犠牲者の男性とは対照的に、その同僚は遊び人で交友関係も賑やかだったからだ。病原体はエボラ・スーダンと分類された。

 スーダンでの悲劇から2カ月後、さらに凶悪なエボラ・ザイールが発生した。最初の犠牲者はわかっていないが、後にその検査薬の名前となったメインガはよく働く看護師だった。20歳くらいの気だての良い美しいアフリカ娘で、市内の病院でエボラ患者の看護にあたっていた。ほどなくエボラを発症した彼女は、ちょうどヨーロッパの大学で学ぶための奨学金を得ていたといい、外務省にパスポート申請のために並んだり、街中を歩いたりしていた。そのため、現地はパニックに陥り、WHO(世界保健機関)も世界規模のアウトブレイクが起きると震撼したという。WHOはすぐに国際チームを結成。世界各国から専門家が派遣された。その結果、ただの対面接触では感染は広がらないことがわかり、事態も収束に向かった。

◆ 命がけでエボラと戦った人々

 この本がアメリカでベストセラーとなったのは、首都ワシントンD.C.からほど近いヴァージニア州レストンで発生したエボラウィルスとの戦いが描かれていることも大きい。市内へと通じるリーズバーグ・パイクは通勤ラッシュで混雑する主要路だ。1989年秋、人々の日常のすぐそばにある“モンキー・ハウス”(レストン霊長類検疫所)で、エボラウィルスが発見され、その掃討作戦が繰り広げられていたのだ。しかも、メディアにも知られることなく秘密裏に遂行されたという。

 後にエボラ・レストンと命名されたこの病原体は、フィリピンから“モンキー・ハウス”へと移送されたカニクイザルに次々と発症した。掃討作戦を担ったのは、アメリカ陸軍伝染病医学研究所に務める陸軍所属の兵士や学者たちで、エボラウィルスを検査する様子や防護服を着て作戦に従事するに至るまで、子細に描かれている。しかも、彼ら一人一人の特徴や性格、家族や仲間との関係や、心情までも再現され、まるで追体験しているかのように鮮やかだ。

 エボラウィルスとの戦いは戦争そのもので、未知の生命体との対決はさながらSF映画のよう。また、アメリカ陸軍伝染病医学研究所(ユーサムリッド)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)との政治的せめぎ合いや、法律上の問題や駆け引きは、刑事モノの作品などで地元警察とFBIが管轄を争う構図にも重なる。

◆ 映画に収まりきらない描写、TVシリーズに

 ディテールを埋め尽くしたノンフィクションは、ずっしり脳裏に焼き付く。最近、本書のTV映像化がミニ・シリーズで決まったというが、それも当然の流れとすら思われる。現地メディアによると、製作は名匠リドリー・スコットと『インターステラー』のリンダ・オブスト。スコット監督は、プレミア回のメガホンも取るという。実は、両氏は本書の映像化の権利を20年前に得ていたといい、オスカー女優ジョディ・フォスター主演で映画化する予定だったという。最近は、映画では収まりきらない場合、より長く壮大に描けるミニ・シリーズで大作を手掛けるクリエイターも少なくない。満を持した映像版『ホット・ゾーン』にも期待が高まる。

文=松山ようこ