現代の日本で、専業主婦を目指してはいけない理由

社会

公開日:2014/12/26

 安倍首相率いる自民党の圧勝だった、先の衆議院選挙。安倍政権が推進している政策のひとつは「女性の活用」。男女共同参画社会を実現…と叫ばれる今、専業主婦になりたい20代が増えているという。時代に逆行するような願望が生まれる背景とは?

「今の20代は、母親の良妻賢母に良いイメージを母親世代から引き継いでいるからです」と、お答えいただいたのは、ジャーナリストの白河桃子さん。この度『専業主婦になりたい女たち』(白河桃子/ポプラ社)を上梓した。

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▲著者・白河桃子さん

“選んで”主婦になった母親へ憧れる

 専業主婦に育てられたのは、今の20代に限らず30代後半の団塊ジュニアも同じだ。なぜ20代だけ専業主婦に良いイメージを持っているのだろうか。

「団塊ジュニアを育てた、団塊世代にとって、専業主婦になることは“当たり前”でほかの選択肢がなかった。一方、今の20代の母親は、男女雇用機会均等法前後から社会に出た人たち。働くか専業主婦になるか、選択肢がありました。 “選んで”家庭に入った人たちです」(白河さん、以下同)

 選択しようがなかった団塊世代の主婦とは違う。団塊ジュニアは「わたしはできなかったから、あなたは頑張って。女にも経済力が必要」と、働くことを後押しされた。一方、今の20代は、選んで専業主婦となり、子育てに幸せ感を感じている母親に育てられた。価値観にギャップがあるのだという。

 少子化・経済成長率など日本社会には問題は多い。だがそのことはさておき、職業は選ぶ自由がある。専業主婦になりたいのなら、仕方がないのではないだろうか。

「ちょっと待ってください。今は時代が違います。今の日本で専業主婦は、まずなれないからこそ希少。そして専業主婦を選ぶことは落とし穴も多いのです!」

専業主婦は貧困の予備軍?

 育児と仕事を両立しているワーキングマザーをストレスなくこなす人もいる。一方、髪を振り乱し、職場で家庭で必死に動き回っているように見える人もいる。そんなにガムシャラにならなければ両立できないなら、育児に専念してもいいのではないだろうか。

「確かに女性は出産があるため、男性よりもハイスピードで仕事する人も多いです。一方、男性はキャリアが途切れることを意識せずに、一生働き続けるのだからとペース配分しています。女性、特に正社員は、30歳までにフル馬力で働き、疲弊している姿が見受けられます。でも働くことを諦めないで欲しいですね」

 白河さんが危惧するのは、専業主婦を目指すとまず結婚が遅くなるか、できなくなること。またなれても、男性に比べ女性は貧困に陥りやすいということ。本当に「専業主婦という仕事で一生食べていけるのか?」と問いかける。

「一回家に入って子育てして、それからまた働こうと思う人は多い。しかし、専業主婦から再就職して正社員になれる人は4人にひとり。女性の65%は非正規雇用。しかも年収は130万円前後が圧倒的です。これには、税金の配偶者控除の範囲内を意識しているから、とも考えられます。
 夫の収入があるうちはいいですが、離婚・死別と夫がいなくなると女性の生活は立ち行かなくなってしまいます。実際、65歳以上の単身女性を見た場合、2人にひとりが“相対的貧困”状態にあります」

 今回の調査では相対的貧困は「今回の調査では中央値は244万円、貧困線は122万円」なので、122万円以下の人を指す。

バブルから時代は変わったという意識を

 65歳以上の単身女性世帯の半分が貧困とは…、驚くべき数字だ。でも子育てしながら働くには、保育園不足・夫の理解などクリアすべき問題も多い。にっちもさっちも行かないではないか!

「ですから社会の構造がおかしいと思うのです。政治でその歪みを正す必要もあります。女性も貧困に陥りやすいということを知っておくべきです。今は母親世代と時代が違うのですから」

 社会の仕組みを変えるには女性たちの力では、いかんともしがたい。男性たちも意識改革が必要だ。

 ところで白河さんはジャーナリストとして活躍しているが、もともと、キャリア志向が高かったのだろうか。

「いいえ、昔の私はキャリアなんて何も考えていませんでした。働いていたとはいえ、一般職でノンエキスパート。バブル世代なので専業主婦になれると信じていました。今、女子大で教えているのですが、彼女たちのロールモデルにはまったくなり得ないです」

ライフワークは「追い込まれて」見つかる

 結婚を機に退職、夫の転勤に帯同。けれど結婚前から、お見合いや結婚にまつわるエッセイを執筆していたという。

「お見合い体験がいっぱいあって、それを知り合った雑誌の編集者に話したら面白がってくれて。連載のページをポーンっともらえたのです。バブルだからあり得た話です。それをきっかけに女性の結婚や恋愛に関する記事を書いていました。でも、結婚や出産の悩みを聞いてみると、結局仕事や働き方にたどりつきます。それで仕事、結婚、出産、両立など全部を取り上げることとなりました」

 2008年に出版された、中央大学・山田昌弘氏との共著『「婚活」時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン )は、世間に驚きと衝撃を与えた。結婚は、就職活動と同じように「活動」してまでして、得たい時代となったからである。それまでのフェミニストの主張は、「女性の家庭からの開放」がメインテーマだったが、女性たちが逆の行動を取っていることを指摘したからだ。

 現代の女性のありのままを報じ、是正を提案する。このような壮大なライフワークに出会ったきっかけはなにだろうか。

「執筆する以外選択肢がなく、追い込まれたからでしょうか。転勤で海外から戻ってきたときに、年齢的に再就職が難しいと思っていたので、書くしかありませんでした。ライフワークは見つけるものではなく、追い込まれることもあります(笑)」

仕事で“輝きたい”ならキャッチする努力を

 女子大生を教えていると、働く目的に“社会に貢献したい”“好きなことを仕事にしなければ”などと考える人が少なくないと感じるそうだ。“お金や生活”のために働くのは「夢がない」ことのようだ。そのためか、意識が高い女子大生ほど、正社員としてせっかく就職しても、「思っていた仕事と違う」とすぐ辞めてしまうらしい。
 そんな彼女たちに、白河さんは新しいキャリア理論を伝えている。「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory・スタンフォード大J.D.クランボルツ氏提唱)というそうだ。

「20代で結婚して、30代で出産して、40代で復職して…。いくら計画を立ててもその通りには人生進みませんよね。私自身も今のようになるとは全然思っていませんでした。
 今は変化の激しい時代です。計画を超えたことはどうしても起きます。偶発的な何かが起きても、逆にそれを利用してキャリアを築いていくという考え方です。
 例えば棚からぼた餅が落ちてくることもあります。それをキャッチするだけの力を備えておくことも必要」

 女性が仕事で“輝きたい”と思うことは結構だ。だが人生は計画通りではない。自分自身が輝けないと思うような境遇に置かれることもあるだろう。しかし、そこで投げ出さずにある程度淡々と仕事をする。流れに身を任せ、同時にいつか輝けるチャンス(=ぼた餅)が巡ってきた時のために自分の意志や努力を継続することも必要だ。男性も知っておきたい言葉である。

女に生まれて幸せですか?

 このように女性が生き抜くことは大変な時代だ。白河さんは女性に生まれて良かったと思うのだろうか。

「もちろんです。女性は色々と楽しみがあります。女性は男性より幸福上手と言われています。男性の幸せを左右するのは、パートナーや地位くらい。一方女性は、収入が低くとも無業になっても幸せを感じることができます。男性は一度でも無業になると幸福度が低くなるそうです。多様な幸せを感じられるのは、ハートの感受性が女性の方が幅広いからではないでしょうか。
 また働き方も女性には選択肢が多いと思います。私は結婚していたからこそジャーナリストに挑戦できました。
 今、私は若い世代にキャリア教育することに力を入れています。賢く渡れば明るい未来は開けると思うからです」

 時代は女性でも働くことがデフォルトに変化している。働くことは辛いばかりではない。自分の未来を築く礎になるのだ。より良い将来のために、本書は女性だけではなく、男性にも手にとってもらいたい1冊だ。

白河桃子
ジャーナリスト、作家、相模女子大学客員教授。内閣府「新たな少子化社会政策大網」有識者委員。『「婚活」症候群』(ディスカヴァー)『「産む」と「働く」の教科書』(講談社)、『格付けしあう女たち』(ポプラ新書)など著書多数。オフィシャルブログ

取材・文=武藤徉子