生みの親が語る「ジバニャン」誕生秘話 『妖怪ウォッチ』キャラクターデザイナー長野拓造さんインタビュー【前編】
公開日:2014/12/28
今年、もっともブレイクしたキャラクターは、問答無用に「ジバニャン」だろう。ご存じ『妖怪ウォッチ』で成仏にできずにさまよう地縛霊である。そのかわいらしさから、子どものみならず、大人のハートまでわしづかみにしている。
このキャラクターをデザインしたのは、レベルファイブの長野拓造さん。ゲーム企画が立ち上がった当初から、制作に携わっている。このメガヒット作品はいったいどのように生まれたのだろうか。今回特別にインタビューに応じてくれた。長野さん、教えてウィッス!
▲ゲーム・アニメ・マンガなど様々なメディアで大人気の『妖怪ウォッチ』
>>【後編】長野さんが伝授「ジバニャンの描き方」! 耳欠け腹巻きがあればOK
■箇条書きの企画書から始まった
「僕が『妖怪ウォッチ』にかかわったのは、今から約4年前。当社の日野晃博(レベルファイブ社長・同作クリエイティブプロデューサー)が、企画書を持ってきてからです。
登場人物が箇条書きで書いてあり、妖怪ウォッチがどんな役割を果たすのか、など簡単な内容が書いてありました」(長野さん、以下同)
ゲームの構造は、日野さんの頭のなかで既に固まっていたという。そこで、長野さんはゲームの世界観をビジュアルで表現する役割を担った。まず登場人物の造形である。もちろん最初から今のようなスタイルだったわけではない。
「“妖怪”がテーマなので、古い時代設定だと思っていました。僕がイメージしていたのは、昔から伝わる妖怪です。そのため、昭和な雰囲気を出しつつ、でも『ゲゲゲの鬼太郎』まで怖くなく。でも、藤子不二雄A先生の『笑ゥせぇるすまん』的なブラックさも要求されていました」
▲『妖怪ウォッチ』キャラクターデザインの長野拓造さん
■怨念たっぷりの化け猫がジバニャン!?
その結果、まず出来上がったのが、体が今より大きく、ブラックな雰囲気のジバニャンだったという。
「ジバニャンは地縛霊。だからかなりの怨念を残していったのではないかと考えたのです。耳を削って事故にあったことを表現したり、猫の執念深さを表すために、シッポは二本にし、そして顔は火の玉模様。
あと、昭和のイメージが頭にあったので、腹巻きを付けました。僕は『男はつらいよ』の寅さんが好きで、かつ造形的にもひと癖付けたかったからです。だから僕のなかでは、腹巻きに手を突っ込むオッサン像を勝手につくっていました」
衝撃の事実! 一歩間違えれば、ジバニャンは中年オヤジだったかもしれないのだ!
▲中年オヤジからかわいらしく生まれ変わったジバニャン
■腹巻きは長野さんのこだわり
だが、そんなオッサンのまま進む訳ではなく、かわいい路線へと変更された。
「元々、ゲームのターゲットは、“男女両方の子ども”でした。当社でリリースしている『イナズマイレブン』は、同じく子ども向け作品でしたが、サッカーがテーマ。どちらかというと、男子がメインでした。今回は、男子女子の両方から好かれなければいけない。
そのためキャラクターはよりかわいらしく調整が加えられていきました。きっと当初のキャラクター設定では、ここまで人気はでなかったでしょう(笑)」
全体的に、丸っこく親しみ安い造形に変化するなか、ジバニャンの腹巻きはデザインとして残った。長野氏お気に入りのデザインだったという。
「腹巻きを見たとき日野は、あまりピンとこなかったようです。けれど、腹巻きを描きたいなら、『腹巻と見せかけてお札だった!というのはどう?』提案されたことも。その案はなくなりましたが、僕が気に入っていた腹巻きは残りましたね」
ゲームエピソードに現れない腹巻きに疑問をもった人も多いだろう。だが今でこそこの腹巻きは成功だったと言わざるを得ない。ただかわいいだけでなく、腹巻きというミスマッチがあるからこそ記憶に残る。
▲何を考えているのか、何も考えていないのか分からないキャラ、ウィスパー
■ウィスパーが世界観を決めた
キャラクターのイメージは、描かれる線の太さや量。等身のバランス、色使いなどに左右される。キャラの造形によって作品の世界観は決められる。
長野さんがもっとも苦労したのが、自称・妖怪執事こと、ウィスパーだという。
「ウィスパーが今のように決まったので、妖怪ウォッチの世界観が決定しました。僕は子どもにマネして描いて欲しかったので、細い描線にはしたくありませんでした。
キャラクターを考えるときは、“かわいらしさ”と“怖さ”をどの程度盛り込むのか調整しながら案を出しました」
キャラクターデザインとはいえ、思いのままに描くのが仕事ではない。キャラの印象を左右する基軸を立て、そのスケールに沿って案を出していくのだ。
ウィスパーといえば、青いたらこクチビル。あの顔の意図とは?
「ウィスパーの太いクチビルは、いつも笑っています。このパーツによって、なにを考えているのかわからない顔にしたかったのです。不気味さを表すひとつの表現として採用しました」
ケータくんと最初に友達となる妖怪として、親しみやすさもあり、なおかつオバケらしい不気味さも感じられる。確かに、その通りの印象だ。
▲主人公ケータとフミちゃんにも、長野さんのこだわりが反映されている
■フミちゃんはオシャレさんなのだ
妖怪の他にゲームにインパクトを与えるのが、人間のキャラたちだ。ケータを中心に、いつも遊ぶ仲間やマドンナ的存在がいて…。どこかで聞いたような、登場人物だ。そう、『妖怪ウォッチ』を見た人は、某国民的作品を思い出す人もいるだろう。
「この作品も、『イナズマイレブン』同様に、クロスメディア作品として『コロコロコミック』で展開する意向でした。そのため、自分が当時『コロコロ』で影響を受けたものも参考にしました。代表的なのは『ドラえもん』ですね」
だが『妖怪ウォッチ』の人物に、意地悪なキャラはいない。みんないい子ばかりだ。さらに永遠の短パン少年・のび太とは違い、ケータ、クマ、カンチもみんなオシャレだ。それは時代を表してのことだろうか。
「ケータが身につけている妖怪ウォッチや物語の世界観は、ある程度リアルデザインでした。それに見合う形で、着せる服もある程度ディティールを加えました。
それから当時、僕の娘があれこれ着てみたいと、言いだしたことも影響しています。自分は男の子だったので、気がつきませんでしたが女の子は小さくともオシャレをしたいものかと。それでフミちゃんは、洋服に気を遣っているよう、意識してデザインしました」
うっかり忘れがちだが、ゲームではケータとフミちゃんのダブル主人公なのだ。フミちゃんのネックレス型のウォッチは、かわいいぞ!
今、もっとも子どもがマネしたいキャラをつくりあげた長野氏。ぜひとも聞きたいのは、上手なジバニャンの描き方だ。そのコツとは…?
>>【後編】長野さんが伝授「ジバニャンの描き方」! 耳欠け腹巻きがあればOK
取材・文=武藤徉子
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