電車に飛び込んで命を絶った小学5年生の男の子に伝えたい 「人がしぬって、どういうこと?」

社会

公開日:2015/1/4

 2013年2月、大阪府大東市で小学5年生の男児が電車に飛び込んで自殺する、という衝撃的な事件が起こりました。駅のホームにはメモが残されていました。

<どうか一つのちいさな命とひきかえに、とうはいごうを中止してください>

advertisement

 男児が通っている学校は、統廃合をする話が進んでいたそうです。それを止めるために、「どうか自分の命と引き換えに」と命を絶ったのです。

 子供の頃、わたしも小さなことであれこれ悩んでいました。友だちと喧嘩をしただけで、この世の終わりのような気分になっていた気がします。今だったら、仲直りの仕方も分かりますし、ある程度は関係を修復できます。どうしても難しい場合は、「二度と会わない」という選択肢だってあります。しかし子供には、考えられる選択肢が限られているのでしょう。

 冒頭の事件について、翌日の読売新聞のコラム『編集手帳』にこう書いてありました。「君は間違っている。人類史上でたった一度の奇跡として生まれてきた君が、何かと引き換えになる『ちいさな命』のはずがない。間違っている」

 自分の命を差し出してでも、世の中が変わってほしい。そんな自己犠牲精神があるのなら、将来、もっといろいろなことができたのに。今でも胸が締め付けられる思いがします。もしあの男の子がこれを読んでいたら、あのような事件は起こらなかったかも知れないという本があります。『こころのふしぎ なぜ? どうして?』(村山哲哉/高橋書店)

 文部科学省教科書調査官である著者が、子供向けに書いた心についての本です。「心って、どこにあるの?」「人の気もちには、どんなしゅるいがあるの?」「どうして歌を歌いたくなるの?」など、子供の素朴な疑問に分かりやすい言葉で解説しています。

 本書の「いのちのふしぎ」という章の中に、「人がしぬって、どういうこと?」という節があります。これをもし、あの事件の男の子が読んでいたなら…。以下に、著者の解説を引用します。

 人間は、一人では生きていけません。だから、だれもがたくさんの人とつながって、たすけあいながら生きています。かぞくや、なかのよい友だちなど、自分とかかわりあいのふかい人ほど、太いリボンでつながっています。では、もし自分がしんだら……? つながっていたリボンはいっしゅんで、おもいくさりにかわります。のこされた人たちは、そのくさりのおもさにたえながら、このあと、ずっと生きていくことになります。(中略)人がしぬということは、その人だけでなく、その人とつながっている多くの人を、ふかくかなしませることなのです。だから、人をころしてはいけないし、自分で自分をころすのも、いけないことなのです。

 大人になると、困難に遭遇したとき、解決するための選択肢が増えます。助けてくれる人も増えます。しかし、自ら死を選ぶ大人は後を絶ちません。「人がしぬということは、その人だけでなく、その人とつながっている多くの人を、ふかくかなしませることなのです」――こんな単純なことを、大人は不意に忘れてしまうのだと思うと、身のすくむ思いがします。

文=尾崎ムギ子