宝くじで1等3億円を当て人生が激変! 問い直したい「お金と幸せ」の価値

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

銀座のチャンスセンター前に、昨年も数時間待ちの大行列ができた「年末ジャンボ宝くじ」。億万長者の夢をのせ、賞金は1等前後賞あわせて7億円。1980年のジャンボくじスタート時点では1等3000万円だったというから、30数年でずいぶん庶民の欲望も高額化したものだ。成功した新富裕層の超リッチぶりが伝わってきたり、FXや株で大儲けしたネット民がいたり…いまや「元普通の人」が億万長者になる時代だから、宝くじにもこのくらいのスケールが必要なのかもしれない。

だが、実際に億万長者になったら、あなたはどうする? やりたいことがある人がいる一方で、いまひとつ浮かばない人もいるかもしれない。実は世の中、お金に「罪悪感」を持っていて、消極的な態度をとる人は多いものだ。往々にして「お金」の話を正面から考えるのを避け、「お金では本当の幸せは買えない」とかそれらしく論点をズラしてしまう。一方、そんな心とは裏腹に、地球規模では「マネー」だけが共通言語であり、先の衆院選も「経済」「カネ」の話に終始した。なんとも現実はアンビバレントなわけで、だったらそろそろ正面から「お金」に向き合うべきなのかもしれない。

advertisement

そんな時代の空気を察してか、今、川村元気さんの小説『億男』(マガジンハウス)がじわじわ人気だ。この本のテーマはズバリ「お金と幸せ」について。主人公の目線を通してお金(それも大金の)とのつきあい方について、初歩からレッスンしてくれるという興味深いものなのだ。

主人公は失踪した弟の3千万円の借金を返済するため、図書館司書とパン工場の夜間勤務をこなし、余裕のない生活が原因で家族と別居し、猫と工場の寮に暮らす平凡で実直な一男だ。ある日、宝くじで1等3億円を引きあてたことから人生が変わる。といっても享楽的な人生になるとかではなく、「お金と幸せ」について考える奇妙な冒険(?)に突入していくのだ。

前代未聞の事態に戸惑い、思いきって「お金と幸せの答えを、見つけてくる」と言ったまま音信不通だった学生時代の親友・九十九(いまや事業で成功し時価157億円以上の資産家)に会いにいけば、「君はお金を悪者にして見ないようにしてきたし、お金のことを何も知らない。お金のルールを知っているものだけが、お金持ちになれる」と諭される一男。九十九のすすめで3億円を現金化してその質感を体感したはいいが、気がつけば一男の前から3億円と共に九十九が姿を消してしまう。なんとか九十九を探しだそうと、彼の元同僚(いずれも億万長者)に会いに行くが、彼を待っていたのは不可思議な3人———愛とお金の相克に苦しみ、あえてお金を目の前から遠ざけることで心の平穏を得ている十和子、金目当ての人ばかりがよってくる現実に不信感を拭えず、競馬に巨万の富を捨てるかのように投じる百瀬、詐欺まがいの宗教でお金を肯定することを訴え、信者からの信頼に肯定感を得ている千住———だった。

九十九の行方のヒントを探すつもりが、彼らとの対話から九十九に問うはずだった「お金と幸せ」について彼らなりの解答のようなものを感じる一男。彼らの姿がいわゆる「幸せ」かはさておき、ある種の寓話的な示唆性をもっているのは確かだ。果たして九十九は見つかるのか? 「お金と幸せ」についての真の解答は得られるのか? 話の続きは本でお楽しみいただきたくとして、この本が読者の心の中にも「お金との向き合い方」という命題を与えてくれるのは間違いないだろう。

お金の使い方や幸せの感じ方は人それぞれ。だが、少なくともお金に自覚的に向き合うことが人生のセーフティネットになる可能性はある。この本をきっかけに「お金と幸せ」を自分なりに問い直して新年を迎えるのも悪くない。

文=荒井理恵

■『億男』(川村元気/マガジンハウス)