現役官僚がリアル告発! 「原発再稼働」施行で起こりうる、最悪のカタチ

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

2013年秋、永田町、そして霞ヶ関界隈に超弩級の緊張が走った。原因はたった1冊の本。タイトルは『原発ホワイトアウト』(講談社)。東日本大震災以降で多く見られた、原子力発電所とその周辺を舞台とした「フィクション」である。しかし、読み進めると程なくモデルとなる人物や団体が簡単に特定できてしまう驚異的な構成。何よりも衝撃的だったのは、若杉冽なる耳慣れない著者名の横に、「現役キャリア官僚」の文字があったこと。もちろん“若杉冽”はペンネームであり、その素性は全く明らかになっていない覆面作家。十中八九、内部告発。その位置付けが成立しないと、解説のしようのない作品であった。

この『東京ブラックアウト』は若杉冽による告発ノベル第2弾であり、さらに恐ろしい内容に終始する。『原発ホワイトアウト』では東日本大震災を経験しておきながら政治家・官僚・そして利権企業である電力会社が暗躍し、結局再稼働させてしまった原発が、上越方面で絶望的な臨界事故を起こすところまでを描いていた。本作では時計が少しだけ戻り、原発再稼働計画の確定から実際の再稼働、事故、そして終着点となる事故後のエピソード、という展開。つまり、今現在我が国が取り組んでいる「原発再稼働」が施行された場合の「最悪」を、現実感たっぷりにシミュレートした作品である、と言える。

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まず、薄気味悪いほどゾッとしてしまうのが前半の再稼働計画確定の部分まで。まるで今の日本の現状を実況中継しているかのような文章で、どう読み込んでも今の日本の「原子力ムラ」と呼ばれるベールに包まれた一団の内情を暴露しているとしか思えない。登場人物も現役総理大臣のあの人や、かつて郵政選挙でカリスマとなったあの人、原発再稼働に反対して国会に殴り込んだあのタレント議員、そして日本の象徴であるあの方など、全員顔が想像できる人たちばかり。圧倒的とも言えるリアリティを感じるのも当然である。

そして後半・事故後の展開があまりに残酷すぎる。そもそも事故が起きることが想定されていない原子力発電所に事故が起こった場合、それがどのような悲劇を生むのかを、悲しい事に我々は実体験としてよく知っている。だから、どこまでが創作でどこまでが本当なのかがしばし曖昧になってしまうし、あの事故が下手をすればこういう状況を作ったかもしれない、と考えると、背筋が凍るほど恐ろしくなる。

若杉冽という覆面作家について解っていることは、「東京大学法学部卒・国家公務員I種試験合格・現在、霞ヶ関の省庁に勤務」という3点のみ。著者がもし本物の現役官僚だとするのなら(ほぼ間違いなく本物なのであろうが)、官はもちろん政も、そして財も、正体暴きに躍起になるに違いない。そしてこの本にあるような「際限の無い権力」を彼らが有しているのであれば、勇気ある若杉冽の作家生命もそれ程長くはないのかもしれない。

この本が出たばかりで言うのもなんなのだが、であるがこそ、定期的な新作の発刊を強く望む。我々市井の人間にとっては、若杉冽こそが「正しい官僚」であり、なおかつ「勇気ある告発者」である。東京が荒廃し、闇に包まれてしまう未来が来る、というのは、決して絵空事ではないはず。だからこそ「本当」を知りうる立場の人間からの発信を欲するし、そんな作品を重要な参考書として活用したい。あの震災を経験してしまった以上、そうなるのは自明の理である気がする。

もしリリースが止まったら、「やっぱり…」と思ってしまうし、もしかしたら最悪の事態すら想像してしまう。そんな世の中ではあまりに寂しすぎるし、僕の生まれ育った日本という国が、そこまで情けないとも思いたくはない。次作のアナウンスを、心から待っている。

文=サイトウタクミ

■『東京ブラックアウト』(若杉冽/講談社)