不倫・略奪・セフレ…『残花繚乱』にみる盛りを過ぎた女たちに渦巻く本音

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

幸せな結婚とは何か? 相思相愛で誰からも祝福されるものが一般的な幸せの形だろう。経済力・ルックス・性格が合うなど細かく見れば、切りがないほどの条件はある。だが誰もが欲するのが「愛」だろう。お金を目前にすれば、妥協もありえるが、人は基本、愛されたい生き物だ。

結婚を考えたとき、愛と社会生活を天秤にかけてしまう女性は多い。そんなもやもやを抱えていると、あっという間に歳を重ねてしまう。そんな結婚にまつわる、もやもやを抱えている人にぜひ読んで貰いたいのが、岡部えつ著『残花繚乱』(双葉社)だ。この本を読了すると、もやもやに捕らわれる気持ちが少し軽くなるかもしれない。

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物語は、中年という年齢を過ぎても色香を漂わせる男・柏木を軸に、様々な女たちの狂い咲きが描かれている。柏木と不倫していた32歳のりかは、柏木の妻のすすめで見合い結婚をする。妻は、夫の不倫を知ったうえで、その不倫相手に見合いをすすめている。りかの友人・麻紀は、りかの婚約相手と知りつつ、その相手を寝取る。そしてそのことを結婚後に暴露する…。

昼ドラの不倫劇に思えるかもしれない。だが、この物語を読み進めるほど、私たちは様々な思い込みに捕らわれていたことに気がつく。

りかは、嫌いでも好きでもない相手と結婚する。けれど次第にその関係に馴染んでくる。体の関係だけをくり返し、結婚などまるで考えていない麻紀。年齢を重ねる度に、女としての魅力が衰えるのでないかと心配になる。けれど、自分を都合良く扱う男たちはごまんといることを悟る。

夫婦はこうあらねば。女はこうあらねば。ステレオタイプの思い込みこそ自分を縛っているのだ。同じ人間がふたりといないように、自分の欲する愛の形もまた違うのだ。自分にフィットする愛の形に収まればいい。

この作品に引き込まれるのは、なんといっても入り乱れる男女の関係、錯綜する思い。お互いに優れていることを牽制し合う女たちの影なる戦いもたまらない壮絶さだ。

友人の婚約者を寝取ってやろうと思う黒い気持ち。子どもを妊娠することで、「私はお前より愛されている」とアピールする姿。不仲にもかかわらず、ホームパーティを開き円満夫婦を演じる。痛々しくてたまらない。必死の形相で相手より少しでも幸せであるかのように競い合う。女の腹黒い部分を一滴も逃すことなく描く。だが心のダークさは、とぐろを巻いているだけではない。

現代の女たちはエネルギッシュだ。麻紀は美容整形で加齢に負けない美貌を手に入れる。柏木の妻は、見合いを持ち出し夫へダメージを与える。りかは、ポジティブに振る舞うことで外敵をはね除ける。耐え忍ぶだけではない女たちの姿は、小気味よくある。

作中のスパイスとなるのが、柏木の娘・美羽だ。17歳の娘は、怖いもの知らずで本音を口にする。交際を迫る妻帯者の男に問う。「私と付き合いたいということは、奥さんと別れる」のか。また互いに裏切りの気持ちを持つ夫婦を「薄汚い思いをかかえたまま、ずっと夫婦でいたいのか、愛し合っていないのに」と切る。

おっしゃるとおりだ。だが歳を重ねると、理想論だけでは生きていけないとも教えてくれる。完ぺきな人間などいないのだから。みんなどこか足りないものを抱え、作中の女たちのように悩む。そして、自分の足りなさを認めたとき、次のステップへ進めるのだ。

タイトルに出てくる「残花」とは、盛期を過ぎて散り残った花びら。つまり若さを失った女たちだ。彼女たちは、世間が思い描く結婚をしないと不幸なのか。女の本音をさらけ出したこの作品で答えを感じてほしい。

文=武藤徉子

■『残花繚乱』(岡部えつ/双葉社)