人口が減るのに新幹線は必要なの? 鉄道を取り巻く現状とこれからを考える

社会

公開日:2015/1/28

 東京をはじめとする大都市に住んでいる人と、田舎町に住んでいる人。いろいろな違いはあるが、大きな違いのひとつとして、“鉄道の利用頻度”がある。例えば、東京で暮らしている筆者は、毎日電車に乗って通勤しているし、取材先に出向くのも出版社へ打合せに行くのも電車を使う。だが、とある地方都市に住んでいる知人の話を聞けば、「鉄道に乗るのは出張や旅行のときくらいで、日常的にはほとんど乗らない」という。通勤も買い物も、すべて自家用車を使っているのだ。

 この大都市と地方の“鉄道利用頻度格差”は、意外と深刻な問題。いくら地方に暮らす人が鉄道を使わないとはいっても、免許を持たない学生や免許を返上したお年寄りにとって鉄道は欠かせない足のひとつ。しかし、現在は特に地方の人口減少が激しい。もともと乗ってくれる人の割合が少ないのに、母数となる地域の人口が減ってしまえば、路線を維持していくのはとてもむずかしくなる。

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 ……と、これがローカル線を取り巻く事情なのだが、一方で今年3月14日には北陸新幹線が金沢まで延伸開業し、来年には北海道新幹線が開業予定。さらに中央リニア新幹線も本格着工を控えるなど、“高速鉄道”というジャンルに絞ればまさに建設花盛り、といった雰囲気だ。

 『人口減少時代の鉄道論』(市川宏雄/洋泉社)は、こうした鉄道を取り巻く現状を分析しつつ、近未来の鉄道とまちづくりはいかにあるべきかを論じている。

 ローカル線の経営が厳しさを増す近年、しばしば「ローカル線を守れ!」といった視点の書籍が発行されている。ただ、こうした本の多くは、極端な言い方をすれば“鉄道ファンの視点”で書かれたものという印象が否めない。いかに論を尽くしても、“鉄道ファンは鉄道が好きなのだから、旅情タップリのローカル線の廃止は反対”というロジックが見え隠れしている気がするのだ。

 だが、本書は少し違う。生き残れるローカル線の条件として、「地元に利用する人が十分にいる」「沿線に有力な観光地を抱えている」の2点をあげ、「そのどちらもない路線は生き残りが厳しくなる」と断じている。もちろん、ただ廃線を推奨しているわけではなく、富山市のコンパクトシティの取り組みやたま駅長で知られる和歌山電鐵貴志川線の例を引きつつ、今後のローカル線の生き残り策を提案している。

 さらに、“ストロー効果”で地方空洞化の要因となるとも言われる新幹線の開通を前向きに捉え地方都市の活性化に資すると見たり、一方で新幹線といえども今後の動向次第では廃線の可能性も否定出来ないとするなど、“路線維持ありきの鉄道論”とは一線を画した論調が興味深い。

 昨年4月、東日本大震災で被害を受けた三陸鉄道の全線運転再開を取材した際、ある地元住民は「再開は嬉しいけれど普段は車だから、乗る機会はあまりないと思う」と言っていた。良くも悪くも、これが地方の鉄道を取り巻く現実なのだ。

 その現実を踏まえた上で、今後の鉄道はどうあるべきなのか。鉄道ファンならずとも、毎日のように鉄道を利用している人ならば、考えておく必要があるだろう。

文=鼠入昌史(Office Ti+)