生きていくということは食べること―マンガ『ダンジョン飯』に見るサバイバルな掟

マンガ

公開日:2015/1/28

 私たちは生きていく限り食べ続けなければならない。突き詰めれば食べるために生きていると言っても過言ではないだろう――そんな掟を思い起こさせられるのが、九井諒子の初長編『ダンジョン飯』(KADOKAWA/エンターブレイン)だ。

 ドラゴンクエストやダンジョンズ&ドラゴンズといったファンタジーRPGに親しんだ人ならお馴染みの、戦士、エルフ、ドワーフ、シーフといったキャラクターが登場する本作だが、ゲームの世界ではあまり省みられることがなかった「食」に焦点が当てられている。

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 本格的なTRPGでは干し肉やパン、水の残量や鮮度がパラメーターとして設定されることもあるが、管理が面倒な割にゲーム性を高める効果は薄いため割愛されることが多い。しかも、本作では食料はダンジョンでの現地調達「のみ」なのだ。プレイの「縛り」としては相当ハードルが高い。

 いきさつはこうだ。パーティーの魔術師メンバーだった戦士の妹が、ダンジョン最深部のドラゴンに食べられてしまう。消化が遅いとされるドラゴンだが、完全に消化されてしまう前に妹を復活させたい――装備や所持金のほとんどを失った戦士は、残されたメンバーと共に体一つで再びダンジョンに挑む。浅い階層ではモンスターもそれほど強くないが、問題は食糧だ。モンスターの中には、巨大化したキノコやコウモリなどがいる。奴らを倒し、食べながら進めば良いじゃないか!

 ダンジョン飯10年という怪しげなドワーフも仲間に加わり、嫌がるエルフも徐々に「その道」に目覚めていく。オオサソリは考えようによっては、カニやエビに似ている。スライムだって天日干しにすれば珍味に早変わり。ようは気の持ちようと、調理の工夫次第で何でも食べることができるのだ。

 現実の世界に生きる私たちにも、世界的な人口増加によって食糧難が迫っているとされる。肉や魚、穀物に代わって、昆虫も有望な栄養源として研究されている。モンスターを倒して食べる一行はコミカルだけど、よくよく考えると私たちは彼らを笑うことはできない。生きて行くには食べなければならない。ダンジョン飯の読後感はそんな想いに駆られ、とりあえず腹が減るのであった。

文=まつもとあつし