原稿料は1本400万円以上!? スピーチライターってどんな仕事? 【広瀬すず主演ドラマでも注目】

ビジネス

公開日:2015/1/31

 広瀬すず主演の日テレ系のドラマ『学校のカイダン』に注目が集まっている。この作品は、生徒会長を無理矢理押し付けられた女子高生が、天才スピーチライターとの出会いによって、言葉の力で学校に革命を起こしていく青春ドラマ。前回第3話(1月24日放送)の平均視聴率は、8.4%と低調だったが、スピーチライターという聞き慣れない職業をテーマとしていることは目新しく、大きな話題を呼んでいる。この作品の重要な鍵を握るスピーチライターとは一体どのような職業なのだろうか。

 『学校のカイダン』の制作にも関わったスピーチライターの蔭山洋介氏は著書『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』(KADOKAWA/角川書店)の中でその仕事の歴史や実態について述べている。世界が大きく変わるとき、そこには歴史に残る名スピーチがある。「Yes we can」「悪の枢軸」「バイ マイ アベノミクス」…。もちろん、これらの言葉を語ったのは、バラク・オバマであり、ジョージ・W・ブッシュであり、安倍晋三だが、これらの言葉を生み出したのは、彼らのスピーチライターたちだ。スピーチライターとは、スピーチ原稿を本人に変わって作成する職業のこと。ゴーストライターという側面もあり、リーダーが人の原稿でスピーチをおこなっていることは秘密にされるべきことだったと蔭山氏はいう。

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 しかし、2008年11月に行なわれたアメリカ代表選挙で、当時弱冠27歳でオバマのチーフスピーチライターを務めたジョン・ファブローら若いスピーチライターたちが活躍したことがきっかけとなり、スピーチライターを取り巻く空気がかわった。その影響から2009年9月に誕生した鳩山政権が内閣官房副長官であった松井孝治と劇作家・演出家の平田オリザのコンビを日本初の総理のスピーチライターとして起用。その後も、菅直人、野田佳彦の下でジャーナリストの下村健一、2度目の総理大臣となった安倍晋三の下でジャーナリストの谷口智彦が、スピーチライターとして活躍している。

 首相は、外交に関わるものだけで多いときに1ヵ月で10本程度の演説をこなさなくてはならず、その他すべてを含めると、無数のスピーチをする機会がある。トップのスピーチは、成果をあげるために利用できる大きなツールであり、権力そのもの。トップからみれば、話してほしいことが大臣や官僚から洪水のように押し寄せるため、その情報の中から何を話せばよいのか考えをまとめるのも大変だ。この情報の流れを整理し、トップの言葉をコントロールする存在としてスピーチライターの存在が必要となる。

 スピーチライターの仕事の本質は、あくまでもクライアントの口から話される言葉にある。紙の上で美しい原稿を書くことではない。スピーチライターはクライアントとの打ち合わせを重ねた上で骨格を決めると、クライアントの前で実際にスピーチを披露し、内容を確認する。そして、聞き手の印象を良くするリズムやクライアントにとって、なじみのある言い回しに変えていく。原稿をすべて文字化することはしない。アウトラインにとどめて、話し手の内面から湧き出るくらい言葉の勢いを殺さずに、力強くいきいきと話すことができるように仕立てる。原稿のほかに、話し方や発声、身振り手振り、スライドや衣装などの演出といった要素についても指導を行ない、スピーチを完成へと導くのだ。

 元々、日本では、歴史的にスピーチ能力は重んじられなかった。議論を通じて政治をするという考え方が出現したのは、議会制民主主義が輸入された明治以降のことである。政治の世界から大衆へと広まったのも、1991年のバブル崩壊以降、終身雇用が崩壊し、付き合いで築き上げてきた信頼関係のリソースが役に立たなくなってから。気心の知れない者と物事を決めていくには、プレゼンテーションスキルやスピーチ能力が問われる。人とのつながりが希薄化した現代社会だからこそ、スピーチ能力が重要視され、スピーチライターは脚光を浴びてきたのだ。

 本書は、ケーススタディーを通したスピーチライターの仕事ぶりが紹介されているだけでなく、感動を呼ぶスピーチを生み出す方法について触れられている。たとえば、天気の話題や家族の話題など、幅広い聴き手が広く浅く共感する話題を積み上げながら、深い共感を形成していくように試みると、聴き手がスピーチに入り込みやすくなるという。他にもさまざまなスピーチの秘訣が載せられており、練習の必要もあるだろうが、自分のスピーチが見違えるように良くなるヒントが満載。この本はスピーチで悩むすべての人にとって強い味方となりそうだ。

 スピーチで世の中を変えること。それは、ドラマの世界だけではなく、現実に起きていることなのだ。この本を読めば、ドラマ『学校のカイダン』もさらに楽しむことができるし、自分のスピーチの質も変わる。この本を読んで、さぁアナタもスピーチで世界を変えよう!

文=アサトーミナミ

『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』(蔭山洋介/KADOKAWA 角川書店)