糸を引く納豆は世界的に珍しい!? アジア~ヒマラヤを巡り「納豆」の起源を探る!

社会

公開日:2015/2/4

 茨城県非公認でありながら、モチーフと同じく粘り強くクセのある(?)キャラによって人気を集める、納豆の妖精というゆるキャラ「ねば~る君」。父は大豆、母は納豆菌で、昔は藁の家に住んでいたが、現在は発泡スチロール製の家に住み、言葉を話し、語尾には「ねば」、喜ぶと体がビヨーンと伸びるのが特徴だ。最近は『納豆の妖精 ねば~る君のネバネバ日記』(ワニブックス)という本を出し、なんと2月4日には歌手デビューもするという、ふなっしーもビックリの活躍っぷりだ。

 そして納豆といって思い出すのが、芸術家であり美食家でもあった北大路魯山人だ。魯山人は『納豆の茶漬け』というエッセイで納豆の混ぜ方を伝授していて、糸を出せば出すほど納豆は美味くなると書いている。とにかく箸で納豆をかたく練り上げ、そこへ醤油を数滴入れて練り、さらに醤油を数滴入れて練りを繰り返して、最後に「糸のすがたがなくなってどろどろになった納豆に、辛子を入れてよく撹拌する。この時、好みによって薬味(ねぎのみじん切り)を少量混和すると、一段と味が強くなって美味い」と記している。

 最近ではこの魯山人の納豆を再現するための調理器具「魯山人納豆鉢」というものまで出ていて、これに納豆を入れ、ハンドルを回して約305回練ると扉が開き、そこに醤油を入れてさらにかき混ぜ、計424回ハンドルを回すと完成するそうだ。そこまでするか、と思うが、納豆が普段とは別ものになるほどの美味さだそうなので、興味があって時間のある人はチャレンジしてみることをオススメする。

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 ところで納豆の本場というと茨城県と思うかもしれないが、秋田県横手市には「納豆発祥の地」の碑があり、秋田には桧山納豆という名産品がある。また山形県には五斗納豆というものもあり、他にも様々な納豆が日本中にあって、どのようにして生まれたのかという伝説も各地に残っている。また納豆があるのは日本だけではない。アジアを中心にかなり広い範囲の人たちが食べているもので、その種類も糸を引かないものやセンベイ状のものなど多種多様なのだという。その納豆がどう生まれ、どのように伝わったのかを15年にわたって調査したのが『納豆の起源』(横山智/ NHK出版)だ。

納豆の起源』(横山智/ NHK出版)

 2000年の冬、ラオスのルアンパバーンのナイトマーケットで売られていた茶色い豆「トゥアナオ」に出会ったという横山氏。現地の言葉で豆を意味する「トゥア」、腐っている状態を意味する「ナオ」は糸を引かないものだったそうだが、味は日本の納豆と一緒だったという(ただかなりキツいアンモニア臭があり、お腹を壊しはしないかと心配するほどだったそうだ)。さらにミャンマーで日本の納豆と同じく糸を引く「ペーボゥッ」に出会ったことで、納豆の研究にのめり込むことになったという。

 横山氏はラオス、タイ、ミャンマー、インド、ネパールと巡り、どこで、どんなふうに納豆が作られ、どのように食べられているのかを丹念に調べていく。その製法も多岐に渡っていて、種類も粒状納豆、ひき割り状納豆、干し納豆、乾燥センベイ状納豆、味噌状納豆、毛豆腐納豆などがあり、発酵に使われる植物の葉にも様々あることを突き止める。そして各地の納豆を調査した後、「納豆の起源」について大胆な仮説を立てているのだが、納豆のことだけで300ページ以上という本書は、ある意味で魯山人を超えたと思わされるほどの濃密な「納豆愛」に満ちている。

 その魯山人、納豆には美味いものと不味いものがあると『納豆の茶漬け』で書いていて、不味いのは練っても糸を引かないでザクザクしているものであり、それは十分に発酵していない未熟品で、「糸をひかない納豆は食べられない」とまで書いているが、糸を引く納豆は世界的に見ると珍しいものであることが本書を読むとわかるはずだ。

 どうしてこんなニオイのキツい豆を食べようと思ったのか(本書にはこの謎についての考察もある)、そしてこれを美味いと感じ、わざわざ作り始めた人に敬意を払い、さらには納豆以上に粘り強い調査結果である本書の内容に驚嘆し、「納豆ってスゲェな」と思いながら、今日もグルグルと納豆をかき混ぜるのであった。

文=成田全(ナリタタモツ)