三重苦!? テレビ東京が他局に勝てる理由

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更新日:2015/2/12

 業績の冴えないテレビ業界の中で異彩を放つ局といえば「テレ東」ことテレビ東京だ。「ブレがない」「企画が斬新」と愛されるテレビ東京は、どのように番組を作っているのだろうか。人気の出る番組を生み出す秘訣はどこにあるのだろうか。

 『テレ東的、一点突破の発想術』(濱谷晃一/ワニブックス)では、ドラマ『俺のダンディズム』『太鼓持ちの達人~正しいほめ方~』などを手がけたテレビ東京のプロデューサー濱谷晃一氏が、「テレ東」躍進の秘訣、「テレ東」の企画術に触れている。濱谷氏は、バラエティ班からドラマ班に異動してきてまだ2年、少し前までアシスタントプロデューサーとして、会議のお茶汲みをしていたというが、そんな彼が多くの連ドラ企画を出せるようになったのは、テレビ東京のバラエティ番組で学んだ企画術をドラマ部門でも実現したためだという。

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 元々、テレビ東京には、他局にはない斬新でテレビ東京らしい企画を考えようという風土がある。濱谷氏に言わせれば、それは、テレビ東京が予算やビッグネームの出演などに関して、他局にビハインドがあるためだ。予算が少ないため、制作会社から企画が回ってくるのも最後、出演者が出演先として、選んでくれるのも最後、条件のいい原作が回ってくるのも最後。そんな三重苦を打破するためには、良い企画を考えるしかない。だから、テレビ東京は低予算でも輝きを放てるオリジナル企画を考えて他局に打ち勝とうとしている。

 濱谷氏によれば、テレビ東京には、低予算のハンディをアイデアで凌駕する「一点突破の企画力」があるという。たとえば、最近のスマッシュヒットである『YOUは何しに日本へ?』は、空港で外国人に話し掛ける“だけ”の1アイデア番組だ。しかし、外国人が日本を訪れた意外な動機や日本の素晴らしさを外国人ならではの視点で語ってくれる。そして、空港から密着した先で起こるハプニングが番組に奥行きを出し、海外ロケをしていなくても、十分に視聴者を感動させている。

 他にも、『開運!なんでも鑑定団』『出没!アド街ック天国』『田舎に泊まろう!』などなど、テレ東でヒットする番組は番組コンセプトがシンプルで、そのワンポイントのアイディアが素晴らしいものばかりだ。テレビ番組は映画と異なり、途中から見始める人もいれば、途中で辞めてしまう人もいる。食事をしながら見る者もいれば、家事の片手間に視聴している者もいる。そんな視聴者にとって、「◯◯しているだけ」というのはコンセプトがシンプルでわかりやすい。予算を節約しなくてはならない制約が、企画の見所を突き詰める美学を生み出したのだ。

「テレ東の独自のアイディア」といえば、報道もその例にあげられるだろう。去年末の『池上彰の総選挙ライブ』が視聴率で民放トップに輝いたのは、記憶に新しい。他局は出口調査を行い、一番先に当選確実を出すことを競い合っていたが、テレビ東京は「こんな面白い候補者がいる」「ここの選挙区はこんな闘いをやっていて面白かった」ということ中心に番組を構成した。たとえば、石破茂氏のプロフィールを「家族が一緒の旅行を嫌がる」という風に紹介したように、候補者の紹介プロフィールは視聴者に政治家を身近な存在に感じされるものとしてネットを中心に話題となった。人海戦術でお金をかければできる、他局もやるようなものに追随しても勝ち目がないというのが社内のコンセンサスとして社員の念頭にあるのだ。

 濱谷氏は、企画の精度を上げる7つの「さ」を挙げている。それは、「わかりやすさ」「新しさ」「かわいらしさ」「ふさわしさ」「思いがけなさ」「今っぽさ」、そして「自分らしさ」。ジャンルによって重要度は異なってくるが、この7つを元としてテレビ東京は独自の企画を作り上げている。

 制約があるからこそ、アイディア力を武器に良い作品を生み出しているテレビ東京。テレビ東京の躍進、その企画術は、テレビ業界だけでなく、予算不足に悩む多くの企業にとって参考になりそうだ。

文=アサトーミナミ