後藤健二さんが迫った元・少年兵の心 ―彼は顔に麻薬を埋め込まれ戦闘マシーンと化していた

海外

公開日:2015/2/24

 イスラム過激派組織による報復の連鎖が広がる中、新たに少年兵の映像が相次いで公開され、衝撃を呼んでいる。

 中東・アフリカなどで、武装グループが18歳未満の子どもを誘拐して少年兵(Child soldier)として徴用している事実はこれまでも問題視され、その数は30万人とも推定されている(日本ユニセフ協会)。

 ジャーナリストとして、紛争や貧困問題に苦しむ子どもたちの姿を報道してきた後藤健二さん。「目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり。それは祈りに近い。憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。-そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった」。これは4万RTを超える後藤さんの2010年9月7日のtweetだ。後藤さんの目には何が映り、何を伝えようとしていたのか。遺された著書から、その一端をかいま見たい。

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麻薬にむしばまれ、戦場に送り込まれる少年兵

 2005年に上梓された『ダイヤモンドより平和がほしい―子ども兵士・ムリアの告白』(後藤健二/汐文社)は、反政府軍の子ども兵士に襲われた“アンプティ(腕や足を切り取られた人々)”を取材するため、ダイヤモンドの産地で知られる西アフリカのシエラレオネを訪れるところから始まる。人々を恐怖で支配するため、反政府軍が少年兵を使い手足を切断させるという、残虐な行為を繰り返していたのだ。

 ある日突然、働いていたダイヤモンド採掘所が5000人以上の少年兵に襲撃され、右腕を切り落とされ、耳を削がれ、足まで撃たれたという痛々しい姿の30代男性は、“右手を見るたびに、おれたちにはもう手がないんだと思うと悲しくなる。忘れることも、記憶から消すことも到底できない”と、深い恨みを後藤さんに突きつける。

 子どもたちは、いったいなぜ、残酷な兵士となってしまったのか。彼らの口から直接話しを聞くために後藤さんが訪れたのは、反政府軍から逃げてきた子ども兵士を保護する、スペインのカソリック教会が運営する施設だった。そこでかつて“やぶの殺し屋”と恐れられた元・子ども兵士、15歳のムリアと出会う。この本の表紙にもなっている、ムリアの顔写真を見てほしい。左目の下にタテに刻みこまれた三日月の傷痕は、カミソリで切られて麻薬を埋め込まれた跡なのだ。

 兵士として戦うか、さもなくば死ぬか。埋め込まれた魔薬で正気を失ったムリアは、反政府軍の戦闘マシーンと化してしまった。薬の力が多くの家族を傷つけ、命を奪わせ、そのことはムリアの心にも深い傷跡を残している。「戦争でひどいことをした」と、人を殺す夢にうなされるムリア。

 保護施設に来てからのムリアは薬を断ち、悪夢のような日々から抜け出そうと禁断症状と闘う。やがて中毒から抜け出した彼は、丁寧な字でノートをとり、学年で3位以内の成績をとるまでになった。少しづつだが、将来の夢を語れるまでに心が回復してくる。しかし、何もできないでただ逃げまどう人たちを殺したという事実は決して消えないから、ムリアは毎日お祈りを欠かさない。

 後藤さんはムリアの苦悩や思いに寄り添うため、かつての自分について振りかえってもらおうと、取材で会ったアンプティの30代男性の言葉を伝える。「もし、その子がおれの目の前にいたとしても、おれは彼を責めない。(中略)彼らを許さなきゃいけない。でも、絶対に忘れることはできない。答えはいつも同じだよ」

 すると、自分の両親も戦争で失っていたムリアは言う。戦争が続いている間は、だれの家族だって殺されるかもしれない。それが戦争なんだ、と。「戦争になってしまったら、みんなが悲しい思いをする。みんなが傷つく。だから、そこで起こったことをだれかのせいにすることなんかできない。でも、それはすごくつらくて苦しいことだよね」

―大統領になって、戦争をしないようにする―。後藤さんに将来の夢を語ったムリアの言葉が、胸を打つ。
 
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