圧倒的経済弱者である若者が、圧倒的経済強者である高齢者に反逆の刃を向けているという構図 ー「老人喰い」の真実

社会

更新日:2015/3/5

 警察庁のまとめによると、「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」「架空請求詐欺」といった「特殊詐欺」の年間被害総額が、2014年、ついに500億円の大台を突破したという。これは2004年に統計を始めてから最悪の数字で、被害者の約8割は60歳以上の高齢者である。また催眠商法やリフォーム詐欺などの「悪質商法」で高齢者が契約当事者となった割合も全体の7割以上に上る。こうした高齢者を狙う犯罪“老人喰い”の手口は、日々巧妙化しており、今や「うちは大丈夫!」と自信を持って言える人などいない状況だ。

 『老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書)は、高齢者を騙して大金をむしり取る“裏稼業”に生きる犯罪者たちを取材し、その実態をあぶり出した興味深い書籍である。著者は『最貧困女子』(幻冬舎新書)や『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)など、裏社会や触法少年少女にスポットを当てたノンフィクションで定評のあるルポライター・鈴木大介さんだ。その衝撃的な内容を、少しだけ紹介したい。

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“老人喰い”の犯人は「渇ききった若者の反逆」

 本著によると、特殊詐欺をはたらく犯人たちのほとんどは20代から40代の最貧困層の若者たちだという。見た目はどこにでもいるサラリーマンそのもので、高齢者を騙すために「(株)詐欺本舗」とでもいうべき組織をつくり、やり手営業マンさながらの高いモチベーションで詐欺を行っているというのだ。

 しかし「弱い高齢者が襲われている」という構図ではなく、そこには「圧倒的経済弱者である若者が、圧倒的経済強者である高齢者に反逆の刃を向けている」という構図があるのだという。これを著者は、高度成長期の時のように働けば豊かになれた時代と違い、働いても将来に希望を持てない若者たち(=砂漠の中で水に飢えた者)が、豊かな高齢者(=たくさんの水を持つ者)を襲うようなもの、と表現している。

一度ひっかかると、10年以上も狙われる!

 ターゲットを選び出す方法としては、かつては「名簿屋」から買い取ったDM用などの名簿を使い、かたっぱしから電話をかけまくっていたが、今ではまず公的機関名をかたって下調べの電話をかけ、「支払い能力があるか」「健康に不安があるか」といった情報を追加した“最強名簿”を作り上げてから、組織的に落としにかかるというのだ。

 特に狙われやすいのは言うまでもなく「資産があり消費・投資行動をしている人間」だが、一度被害にあった人の名簿「ヤラレ名簿」も狙われやすく、また合法的に営業展開しているDM系名簿業者の名簿に載っている人も、油断はできないという。

 しかもこれらの大量に出回っている名簿はストックされ、ことあるごとに情報が強化されて、将来的に使用される可能性があるというからゾッとする。実際、すでに10年以上前の名簿に載っていたために詐欺にあったケースも出ているので、まだ現役世代の人にとっても老後の詐欺被害は他人事ではない。

 筆者の両親のもとにも最近、「息子さんが事故で…」という電話があったのだが、幸い“息子さん”は在宅中だったため事なきを得た。その後しばらくは「どこぞのチンピラが電話してきたのだろう」と、家族間で話題になっていたのだが、本著を読んで「その考えは激甘だ」と分かった。徹底的に・かつ能動的に“騙そう”としている集団から身を守るには、いったいどうすれば良いというのか…?

 本著には、様々な“老人喰い”の手口が再現ドラマのようにリアルに描かれている。そこには具体的な防御策は書かれていないが、裏稼業に身を置く若者たちの心理を知る手がかりが散りばめられている。一読しておけば、自分や家族がターゲットになった時、被害者にならずにすむきっかけを得られるのではないだろうか。

文=増田美栄子