ミキの眼が持つ不思議な力とは!?『エンジェル・ハート 2ndシーズン』新章“ミキビジョン編”が見逃せない

マンガ

更新日:2015/3/7

 現在の技術では、タイムトラベルは不可能である。また理論上でも、技術次第では未来へ行くことは可能だが、過去へ戻ることは不可能だとされている。
 しかし、意外なことに実は既に誰もが体験済みなのである。

 これは嘘ではない。例えば、目を閉じて子供の頃を思い出して欲しい。学校の教室のにおいや、友達の笑顔などを思い浮かべれば、それは十分に過去への旅なのである。明日以降の予定や将来の夢を思い描けば、それは未来への旅だ。
 物質的な移動は否定されているので、その未来や過去には触れることは出来ないが、現実問題として心は時間を簡単に行き来するのである。

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 『エンジェル・ハート2ndシーズン』(北条司/徳間書店)第10巻では、そんな“心が時間を超える”可能性を垣間見ることが出来るはずだ。

 2001年。『シティーハンター』のパラレルワールドとしてスタートし、累計2,100万部を突破した大ヒットシリーズ『エンジェル・ハート』(1st シーズン・新潮社 / 2nd シーズン・徳間書店)。
 北条司氏の集大成ともいわれ、『シティーハンター』のみならず、『F.COMPO(ファミリー・コンポ)』(SCオールマン)などに見られた要素も踏襲し、これまでの北条作品における魅力が凝縮された作品となっている。アクションは控えめだが、その分複雑な過去を持つキャラクター達による、温かいヒューマンドラマが丹念に描かれ、涙なしでは読みきれぬ傑作である。(詳しい概要は前記事『エンジェル・ハートに見る、愛に溢れた人生の秘訣とは?』)

 前巻では“海坊主の隠し子騒動”という、ファルコンに絡んだ事件が印象的だったが、本巻収録の新章“ミキビジョン編”では、これまた一風変わった事件が勃発する。
 その名の通り、ミキの眼に宿る、不思議な力にまつわるエピソードである。

 久々に舞い込んだ仕事の依頼。依頼主はボケ気味の猪口という老人であった。要領を得ない発言に香瑩(シャンイン)は困惑するのだが、ミキだけは一目見ただけであっさりとその本心を引き出す。さらにミキは、その老人のことを若者だというのである。

 名のある財閥を率いる猪口老人は、過去に“結ばれぬ恋”をしていたと語る。「必ず戻る」と言い残したまま、家のために決められた縁談へと身を委ねた自分。それを何十年も悔いて、裏切り者だと責め続けていたという。
「ただ会いたい。ただ、君が幸せであれば…」
 ミキに彼が若者に見えていたのは、「できることなら過去へ戻りたい」と心の底からそう思う猪口老人が、本当に過去へ立ち返っていたからに他ならない。さらに、彼が患う認知症という病魔も、その焦りに拍車をかけている。いざ恋い焦がれたあの人に会っても分からないかもしれないのだ。自分の大事な気持ちをどんどん忘れていく事の辛さは相当なものだろう。

 ミキにはそんな彼の心の姿が見えるのだ。そして後に、ようやく探し当てた相手の女性・啓子の心の姿も見ることとなる。

 老いた2人の再会は果たして幸福なことなのか。不幸なのか。それはぜひ本作の結末を見てほしい。

 不思議な力を持つ少女ミキが橋渡しする、現代で決着する過去のラブ・ストーリー。時を超える心に、きっと永遠の気配を感じる事ができるはずだ。もしかすると、ミキだけに見える心の姿は、その人の“あるべき姿”ともいえるのかもしれない。

 “都会の座敷童子”と呼ばれた少女ミキの新たな力。今後もきっとたくさんの人を幸せにしていくはずだ。

文=すぎやまなつき

エンジェル・ハート2ndシーズン』(北条司/徳間書店)