なぜ『まどマギ』? 世界へ伝えたい日本コンテンツが選ばれた裏側 【「SUGOI JAPAN Award2015授賞式レポ】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

 マンガ・アニメ・ラノベ・エンタメ小説。ここ10年以内に刊行された作品のなかで、もっとも世界へ紹介したい作品とはどれか?
3月12日に授賞式が行われた、「SUGOI JAPAN Award2015」。この賞は、日本から世界へ発信したいポップカルチャーを称えるもの。国民投票によって4ジャンルの頂点が決定した。

この賞のシステムは、まず有識者によって各ジャンル50タイトルずつ選出。そのなかで、自身がイチオシしたい作品へひとり3票を投じる仕組みだ。投票者から、各作品への熱いメッセージが多数寄せられたそうだ。

●SUGOI JAPAN Award2015 トップに輝いた作品

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マンガ部門 『進撃の巨人』
アニメ部門 『魔法少女まどか☆マギカ』
ラノベ部門 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』
エンタメ小説部門 『図書館戦争』シリーズ

最多得票獲得・グランプリ
『魔法少女まどか☆マギカ』

▲SUGOI JAPAN Award2015受賞者のみなさん

投票するにあたり、自分の大好きな作品が、この50タイトルにノミネートされず、ちょっと残念な思いをした人もいるだろう。だがこれには、相当な葛藤があったのだ。授賞式では、選者たちの苦悩と熱い思いが語られた。

●ノミネート作品は日本全体を描いている

マンガ部門の選者を代表して、さやわか氏のコメント。
「マンガといっても、お年寄りから子どもまで幅広い層に読まれています。そのためジャンルも多岐に渡るなか、単純に売上げや人気で選べないと思いました。なぜなら、“日本のSUGOIを世界へ“伝えなければならないからです。そのため、“今の日本はこうだ”という日本の全体を描くよう50作品で見せました」

世界へ発信する、という賞のコンセプトを考えて、悩みに悩んだ末のラインナップとなったのだ。だがその苦悩を受け、投票結果は相応しいものになったのではないだろうか。

「1位の『進撃の巨人』は、日本人がイチオシしたい作品ですが、すでに世界で大人気となっています。日本人がいいと思うものは世界でも評価されるという象徴的な例でしょう。また、2位の『銀の匙 Silver Spoon』は、農業高校を舞台に、日本の食文化。また日本の食品はどのような条件でつくられ、日本人が食に対してどう思っているかを伝えられるでしょう。9位『聖☆おにいさん』からは、日本人の宗教的奔放さを読み取れるはずです」(さやわか氏)

▲『進撃の巨人』のような吸引力のあるコンテンツに国境はない

●この10年の変化を表したアニメのラインアップ

アニメ部門を代表して明治大学国際日本学部准教授・森川嘉一郎氏は、アニメ界の変化を選出に表現した。
「50タイトルには、ここ10年の日本アニメの特質を反映させました。それはほとんどの作品が深夜の時間帯に放映されていることです。かつてのゴールデンタイムの放映から、深夜帯へのシフトは、作品内容にも変化をもたらしました。より制約がなく自由に。また目の高い視聴者向けに多様になりました。
海外では、日本のゴールデンタイム作品に親しんでいる人が圧倒的です。けれど日本アニメが深夜帯へ移行していることを知って、ファンをさらに増やしていきたいです」

さらにトップ10のすべての作品は、歴史の積み重ねが読み取れるという。魔法少女というジャンルは、すでに50年以上も日本アニメを支える軸のひとつ。長い年月をかけて培われたエキスが『魔法少女まどか☆マギカ』には凝縮されている。一朝一夕に制作できる作品ではない、と称えた。ロボットもの、ラブコメものにしても、現在の洗練は積み重ね合ってのこと。このアニメの時間的積み重ねも世界へぜひ伝えたい!

▲受賞をきっかけに、魔法少女ジャンルの最先端作品をもっと多くの人に知って欲しい!

●世界に“学園ラブコメ”をなんと表現するか?

続いてのラノベ作品は、ジャンルの区切りにまず頭を悩ませたという。
「ラノベ小説とエンタメ小説の違いとはなにか。一般的には、マンガっぽいイラストが付いているものと思われがちですが、一概にそうともいえません。けれど、線引きをするとすれば頭のなかで映像化したときの違いです。エンタメ小説は“実写”。ラノベは、“マンガやアニメ的”な映像として思い浮かぶのではないでしょうか。
この10年、ラノベのメインストリームは、学園ラブコメです。“ファンタジー作品なら、“日本のロード・オブ・ザ・リングです”、SFなら“日本のスター・ウォーズです”と例えることができます。けれど、学園ラブコメは世界にどう紹介すべきでしょうか。また世界に受け入れられるか未知数であります」とは、選者を代表して、前島賢氏。

 みごと1位に輝いた『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の作者、渡航先生の受賞コメントも秀逸だ。
「大きな賞をいただき、たいへん光栄ですが、本当に私でいいのか困惑しています(笑)。ラノベは、アニメ・マンガなどの世界に通じるポップカルチャーに比べ、まだ発展途上にあります。ですが、他のジャンルと同様に、世界へ発信するジャンルとして選んでくださったことに、感謝いたします。これは、ライトノベル作家の先輩の方々、出版関係者、そして何より、ライトノベルを応援し続けてくださった、読者のみなさまの力があってのこと。ラノベにかかわるすべての人、そして読者のみなさんと手を取り合って、世界へ広めていきましょう」

▲受賞の喜びを語る、渡航先生

●読み手がクールジャパンを育ててきた

最後にエンタメ小説部門。聞き慣れないジャンルとはどんなものか。
「小説は伝統あるジャンルです。そのため、純文学・エンターテインメント作品などと棲み分けされています。けれど、現代の芥川賞作家のなかにもエンターテインメントとして楽しませることを意識している作品もあります。このようにジャンルを横断した作品を称えるのがエンタメ小説賞です。
現代は、『本屋大賞』が象徴するように、偉い人が上から選ぶ作品がヒットするわけではありません。またこの10年は、読者も変わってきました。デジタルデバイスが普及し、純文学・エンターテインメントという枠を越えて楽しんでいる人が多いと思います。
この賞を通じ、“今の日本人はこんな風に小説を楽しんでいる”ということを伝えたいと思っております」(選者代表・市川真人)

 みごと1位に輝いた「図書館戦争」シリーズの有川浩先生は栄えある賞に輝いたことに感謝しつつ、クールジャパンのこれからも見据えていた。
「この賞を通じ、あらためて日本には優れたコンテンツがあることを知らしめてくださったと思います。世界へ誇れる日本のコンテンツがつくれるのは、お客さんの力があってのこと。日本人のコンテンツの余白を楽しむ力が、いろいろなジャンルで育っていると思います。
このような優れた日本のコンテンツへ、後援の外務省・経済産業省の方々は何をしてくださるのか見届けていきたいと思います」

▲「優れたコンテンツは、高い読解力をもった受け手があってのこと」とファンを称える有川浩先生

「クールジャパン」という言葉は、よく耳にする。だが世界に広めるには、まだまだ時間とパワーがいる。世界へ広める推進力として、私たちができることは、全力で好きな作品を応援すること。この賞は来年も続けられるという。ぜひ世界的視野で作品を推していこう!

■SUGOI JAPAN
各ジャンルトップ10作品、第2回の投票情報はこちらでチェック
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取材・文=武藤徉子