データ捏造、御用学者…遺伝子組換え種子で世界の食料を支配? 仏人ジャーナリストが暴くバイオ化学企業の実態

社会

更新日:2015/3/24

遺伝子組み換え種子の90%のシェアを誇る企業

 スナック菓子や納豆、豆腐などのパッケージを見ると、原材料のところに「(遺伝子組み換えでない)」と書かれているものがある。農林水産省のホームページの「遺伝子組換え食品の表示」という項目には「ある生き物から役に立つ性質を決める遺伝子を取り出して、手を加えてから元の生き物に戻したり、別の種類の生き物に組み込んだりすることを遺伝子組換え技術といいます」とあった。

 この遺伝子組み換え種子において、なんと90%のシェアを握っているのがアメリカのバイオ化学企業「モンサント」だ。1901年、ミズーリ州セントルイスで設立されたモンサントは、ベトナム戦争で使われた「枯葉剤」、人工甘味料の「アスパルテーム」、牛に注射して乳の分泌量を増大させるという「牛成長ホルモン」、そして電気の絶縁体として使われた「PCB」(毒性が強く人体に影響があるとして現在は使用禁止)などを開発・製造したことでも知られる。そして農業で使われる除草剤「ラウンドアップ」も手がけているのだが、この製品も世界各地で様々な問題が報告されているという。

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 そのラウンドアップの特許が将来切れることを見越して作り出されたのが、除草剤に耐性を持つ「ラウンドアップ・レディ」という遺伝子組換え技術を使った大豆の種子で、これはラウンドアップを作っていた工場の排水口で生き残っていたバクテリアから抽出されたDNAが組み込まれて作られたのだそうだ。こうしたモンサントの歴史や、遺伝子組換えについての実態と内実に迫ったのが、『モンサント 世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』(マリー・モニク・ロバン著、戸田 清:監修、村澤真保呂、上尾真道:訳/作品社)だ。

種子を支配することは、食料を支配すること

 著者のマリー・モニク・ロバン氏はフランス人ジャーナリストで、『モンサントの不自然な食べもの』という映像作品の監督でもある。本書はその書籍版であり、ロバン氏による綿密な取材から、モンサントがどのように政治や政府機関へ接触し、データを捏造するため御用学者を用意し、告発しようとした生産者たちを特許や知的所有権を盾に訴えていったことなどが記録されている。さらにはインドやメキシコ、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジルといった国々へと進出し、遺伝子組み換え種子によって世界の食料を支配しようとするプロセスなども炙り出されていく。

 インドの科学者・市民活動家のヴァンダナ・シヴァ氏は、本書でロバン氏の「モンサントの掟というのは、いったい何なのでしょうか?」という問いにこう答えている。

「特許です。モンサントは、遺伝子操作は特許を獲得するための手段である、と言いつづけてきました。それがモンサントにとっての真の目的なのです。(中略)ひとたび遺伝子組み換え種子の知的所有権をルールとして押し付けることができれば、モンサントはロイヤリティーを取り立てることができるようになります。そうなると、私たちは一粒の種を蒔くたびに、一つの畑を耕すたびに、あの会社にお金を吸い取られることになるでしょう。種子を支配することは、食料を支配することです。そのことをモンサントはよくわかっているのです。それがモンサントの戦略なのです。それは爆弾よりも、武器よりも強力です。世界中の人々を支配する最高の手段と言ってよいでしょう」

 たまたま購入した種子に混じっていた遺伝子組換え種子や、偶然にこぼれ落ちたり、風や虫などが運んできた花粉と受粉してしまった種子でも、モンサントが開発した遺伝子組換え種子とDNAが一致すれば、特許を理由に金銭の支払いを要求されてしまうという訴訟は世界各地で起こっているという。それがどのように行われるのか、本書でぜひとも確認してほしい。

2050年に人口は96億 食糧増産は喫緊の課題だが……

 英語には“Eat to live, do not live to eat”(食べるために生きるな、生きるために食べよ)という言葉がある。食べなければ、生物は確実に死に至る。人類は氷河期や飢饉など幾多の食糧危機を乗り越え、現代まで命をつないできた。そして18世紀後半から始まった産業革命から爆発的に増え始めた世界の人口は、2011年に70億人を超え、2050年には96億人となると予測されている。食糧の増産は喫緊の課題だ。

 数万年をかけて作物の品種改良をしてきた人類は、科学の進歩によって、いま大きな岐路に立たされている。本書では、一度でも遺伝子組み換えの作物を植えてしまうと、生物多様性や、古くから残っている貴重な品種、そして人間の関係性にも影響することが詳細にレポートされている。

 560ページを超す分厚い本書を読むと、今あなたの目の前にある食べ物に対する印象がガラリと変わることだろう。「食べる」とはどういうことなのか、改めて考えてみてほしい。

文=古田周擴(フルタチカヒロ)