“売れる”ではなく“生き残る”。Negiccoに学んだ小さいながらの戦い方

更新日:2015/3/28

   

 アイドルのまわりにはたくさんの人たちがいる。彼女たちを支えるために汗を流すスタッフはもちろん、その成長や活躍を見守りたいと心から願い、追い続けるファンの存在も大きい。そして、アイドルという言葉が一般層へ浸透するようになった今、アイドルとファンとの関係性に興味を寄せ、ビジネスやマーケティングの視点から何かをつかみとろうとする取り組みも各所でみられる。

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 湘南ストーリーブランディング研究所の代表・川上徹也さんもその一人だ。今から30年程前に広告業界へ足を踏み入れ、現在は作家やコピーライターとして精力的に活動。昨年3月には『新潟発アイドル Negiccoの成長ストーリーこそ、マーケティングの教科書だ』(祥伝社)を出版した。

 同書を手がけるまで「アイドルの世界はあまり知らなかったんですよ」と話す川上さん。今ではNegiccoのライブでサイリウムを振るまでになったそうだが、人の心を動かすという広告の世界から、なぜアイドルの世界へ関心を抱くようになったのか。そして、アイドル本人やその周囲を取り巻く人たちとの交流、現場の空気を体感する中で何を捉えたのか。記憶をたどりつつ、その思いを語って頂いた。

 執筆のきっかけは2012年7月18日。たまたまテレビで観たNegiccoのドキュメントに一瞬で心を奪われたという。

「NHK Eテレ『Rの法則』で『アスガク〜地方アイドル大集合』という特集が組まれていたんです。様々なグループが登場する中、努力してファンの心をつかむ姿はもちろんですが、アイドルを続ける中での不安や弱さを口にするNegiccoを見たら、何だか急に応援したくなったんです」

 余韻を残したまま企画書を書き上げ、知人の編集者の元へ急いだという川上さん。当初は複数の地方アイドルを取材し、包括的な内容となる予定だったが、Negiccoのマネージャーへの取材を通して「さかのぼるには長過ぎる歴史と物語があった」と悟り、彼女たちのみに焦点を当てる決断をしたという。

 書籍の執筆が決まり、川上さんは現場の空気を感じるために足しげくライブへと足を運んだ。そして、物販での光景に驚きを感じたようだ。

「もちろん現場のすべてが自分にとっては新鮮だったのですが、その中でも物販には衝撃を受けましたね。Negiccoのライブへ初めて足を運んだとき、販売ブースには最後尾から2時間もかかるほどの行列ができていたんです。例えば、グループのロゴが描かれているタオル。ふつうなら数百円で買えるものに数倍の値段が付けられているけど、足を運ぶ人たちはそれを求めるわけです。彼女たち自身のストーリーはもちろん、まわりを取り巻くファンのみなさんとの関係性にも興味を抱くようになりました」

 人間の消費には、理性的なものと感情的なものがあるという。理性的な消費とは、日常で役に立つか、価格は見合っているかなどを見定めながら選ぶ行動。感情的な消費とは、合理的な考え方を超えて心から「何かを欲する」という行動を差すようだが、Negiccoの現場には「感情的な消費がめだちます」と川上さんは語る。

「Negiccoとマーケティングを結びつけたとき、頭に浮かんだのは日本における全企業数の90%以上が中小企業だという現実でした。Negiccoの物語は現在再進行形です。けっして“成功”とか“売れた”と括れるものではない。しかし、これまでの歩みを振り返ると“生き残ってきた”という事実があるわけです。大資本が理性的消費を重視する傾向にある中、Negiccoは小さいながらにいかにして戦うかのヒントをきっと教えてくれるはずです」

 2003年結成のNegiccoは今年でデビューから12年目を数える。その存在は「25才定年説」が囁かれるアイドル業界においても貴重で、デビューから10年以上活動を続けられているグループはモーニング娘。などごく少数しかない。それは設立から10年続く企業がわずか5%しかないといわれる日本の経済とも重なる部分があるだろう。

 今年10月には48グループのNGT48が新潟に劇場を構える予定で、にわかに脚光を浴びている新潟。1カ月限定グループとして始まり、地元で10年以上もがいてきた小さな巨人・Negiccoのサバイバル力とその秘訣を同書からは学び取ることができる。

取材・文=カネコシュウヘイ

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