あなたの子供はグローバル社会でも通用するか? 軽井沢の全寮制学校の試みがスゴい

社会

公開日:2015/3/30

 すごい時代が来たものだ。昨年、日本初の全寮制インターナショナルスクールが軽井沢に開校した。アジアの将来のために、リーダーシップとダイバーシティ(多様性)を育む学校を作りたい、そんなビジョンを持つという。それが「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢」である。

 国際的に活躍するリーダーの資質とはいったいどんなものなのか。それが同校が開校するまでの紆余曲折を記したノンフィクション、『世界を変える全寮制インターナショナルスクール』(中西未紀、小林りん/日経BP社)。

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 この学校の生みの親と言える人物が、あすかアセットマネジメント代表の谷家衛氏。アジアに投資するファンドを運営している人物だ。彼がかつてその人間力を見込んで創業を支援してきたのがマネックス証券社長の松本大氏であり、ライフネット生命社長の岩瀬大輔氏だという。そうそうたるメンツばかりであるからすごい。

 そして、このインターナショナルスクール創設のパートナーとして彼が選んだのが、本作の主人公である小林りん氏だ。東大経済学部卒から国際協力銀行、スタンフォード大教育学修士、ユニセフ勤務ときらびやかな経歴の持ち主で、いまや世界経済フォーラムの「ヤング・グローバルリーダー2012」に選ばれるなど、日本の新時代を代表するリーダーの一人である。

 この学校の理念を一言で言えば、アジアを牽引するリーダーを育成すること。ではリーダーに必要な要素とはなにか。

1.多様性への寛容力
2.問題設定能力
3.困難に挑み続ける力

 この3つであると小林氏は言う。様々な価値観がひしめくアジアをまとめるには寛容力が必須である。将来の見通しが立たない今の時代にあっては、問題をうまく解く力よりも、みずから問題を作り出す力が求められる。また、前例がないことをやり遂げるには当然困難が立ちはだかるはずで、困難に屈しない「根性」を養うことが不可欠であるという。なるほど、まさにグローバルなリーダーの条件だ。

 このインターナショナルスクールは高校生の年代が対象だが、本書で紹介されているエピソードは、スクール設立の準備段階として毎年夏に中学年代を対象に行われた10日間ほどのサマースクールの模様だ。一流の教師たちが趣向を凝らした、子供たちのリーダーシップを育んでいく授業を紹介しよう。

 例えば交渉術のプログラムでは「捕鯨問題」や「6カ国協議」をとりあげる。子供達はそれぞれの国の代表団となってその国の歴史や文化、立場を調べた上で、国際政治さながらに自国が有利になるよう“国際世論”を導いていく。

 そのほかにも「階段から後ろ向きに倒れ仲間に支えてもらうことで、仲間を信頼し身を委ねる経験をする」など。最新の認知科学や心理学、教育学に基づいた興味深い授業が目白押しなのだ。

 なかでもなるほどと思ったのは、「一人が目隠しをした状態でもう一人が誘導する」ことで山頂を目指すメソッド。無事山頂に着いた子供たちだが、業者の手違いで弁当が山頂に届いていなかったというのだ。弁当を楽しみにしている子供たちの前で、この時リーダーシッププログラム担当の教師はどんな行動をとったのか? それは、ぜひ本書を実際に読んで確かめてほしい。このエピソードにはリーダーシップというものの本質が凝縮されていて、なおかつ感動的である。それだけでも本書を読む価値は十分にあるのだ。

 それにしても、本書に登場する人物たちは、子供も大人もリーダーでありエリートばかりである。その自覚と能力の高さには圧倒される。にもかかわらず、本書で繰り返し強調されるのは「リーダーシップ イズ プラクティス」。リーダーシップは修練で身につけることが可能だというのだ。

 でも、大人になったらもう手遅れじゃないの? そう疑問に思ったら、まずは本書を手にとって欲しい。その答えは、この本の中にちゃんとあるのだ。

文=坂東太郎(id-press)