僕、いつまで妊娠させられますか? ―「せめて自分の精子には興味をもってもらいたい」 【香川則子さんインタビュー前編】

出産・子育て

更新日:2015/3/28

 千葉県浦安市の浦安市議会は、順天堂大浦安病院と協力し、卵子凍結保存の研究支援として補助金を出す事業を可決した。今後、浦安市に住む女性(排卵時の年齢が20~34歳)で、将来の出産に備えたい人が卵子凍結保存する場合、費用の3割程度の負担でできるよう調整するそうだ。これは少子化対策の一環であって、決して高齢出産を助長するわけではなく、出産適齢期を考えるきっかけにしてもらいたいという意図があるそうだ。日本の2013年の合計特殊出生率は1.43、この低い状態が続くと、2060年の日本の人口は8674万人にまで減ると見込まれている。少子化対策は喫緊の課題だ。

 そこで、浦安市のプロジェクトにも参加していて、ヒトの卵子保存プロジェクトや、海外での絶滅危惧種保護のプロジェクトを担当するなど生殖医療を研究し、現在は卵子を凍結保存する「プリンセスバンク」の代表を務める「生殖」と「卵子」のプロである生殖工学博士の香川則子さんに、男性編集者と男性ライターという「男2人」で卵子の話を聞きに行くことにした。

香川則子さん

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【後編】「流産をした相手に『また今度頑張ればいいじゃない』とは言わないで」

男は「妊娠・出産」について何も知らない!

 卵子凍結のニュースを耳にしたことがきっかけとなり、香川さんが出版した『私、いつまで産めますか? 卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存』(香川 則子 :著、 加賀谷 奏子 :イラスト/ WAVE出版)を読んだところ、男は妊娠・出産はおろか、女性の体のことについてほとんど何も知らないことを痛感した。卵子凍結とは何かという以前に、これまでの人生で卵子のことについて考えたのは、学生の時の生物の授業くらいしかなかった。そんな言葉をぶつけると、「男性はもちろんそうでしょうけど、女性も自分の体のことを知らない人が多いのでこの本を書いたんです」と香川さん。

「40代の妊娠・出産が報道されることがありますけど、それは珍しいから報道されるんです。医学的に女性が最も子どもを産みやすい年齢は25~34歳といわれています。しかし高齢出産のニュースを情報としてインプットしてしまうので、40代でも生理があれば誰でも子どもが産めると思われてしまうんですね。ただ妊娠する能力は個人個人で違うものですし、どの卵子が赤ちゃんになるのかもわからない、そして努力をしても致し方ない部分というのはどうしてもあるものです。また妊娠=出産という捉え方もされてしまうのですが、高齢出産になればなるほど流産するリスクも高くなります。現在の妊娠・出産には、こうした“現実”と“イメージ”のズレが生まれているということがあるんですよ」

 年齢別の流産率は25歳で13.1%、それが35歳になると20.3%、39歳で30.4%、41歳では42.3%と年齢とともに急激に上がっていくという。こうした「現実」を後になって知り、「もっと早く知りたかった」という女性は多いという。もちろん男性はまったく知らない人ばかりだろう。

 さらに“現実”と“イメージ”のズレは「男女の立場の違いによる結婚への思い」にもあると香川さんは言う。2013年度版『厚生労働白書―若者の意識を探る―』によると、平均初婚年齢は夫30.8歳、妻29.2歳だ。そして未婚者の平均希望結婚年齢も男30.4歳、女28.4歳。現在では30歳前後が「結婚適齢期」になっているのだ。

「男性は家庭を持つことで、仕事をする自分の応援をして欲しいと思っている場合が多いんです。ちょうど30歳頃は役職がついたり、責任のある立場になりますからね。そうすると家庭をしっかりさせるために仕事を頑張りたいと思って、子作りはあと5年待って欲しい、というようなことを言うんです。しかし女性は30歳の壁を感じ、子どもが欲しいと思って結婚している場合が多い。年齢的なことがあるから本当はすぐに欲しいのに、もう少し先でいいと言われてしまう。私は結婚・出産のために仕事のキャリアを我慢したのにと思ったり、5年経ってようやく、と思ったら全然妊娠できないとわかったり…こうやって男女の齟齬が起きるんです。結婚前に付き合っているときは相性が良かったけれど、結婚していざ子どもの話となると意見が合わなくなる。子供のことって、結婚、家族、親族、男女の産み分け、仕事のキャリアなど、小さくない問題が付随してくるんですよ。特に親は子どもが結婚すると、嫁を通り越して孫を欲しがるという傾向もありますしね」

 しかし「子作りはあと5年待って欲しい」というセリフには、男の勝手な思い込みがある。「男は何歳になっても精子が出れば妊娠させられる」…もしそう思っているなら、今すぐに考えを改めて欲しい。これは大きな勘違いなのだ。

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