仏像はどれもハンサム! 作家篠田節子が見た特別展「インドの仏」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

 悠久の地インドの旧首都であり、現在も世界屈指の大都市として知られるコルカタ(旧カルカッタ)。

 そこにアジア最古の博物館である「コルカタ・インド博物館」はある。所蔵するインド古代美術のコレクションは世界有数の規模と質を誇るのだが、その中から特に選ばれた仏教美術の優品を紹介する特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」がただいま東京国立博物館で開催されている。

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「本当に素晴らしいコレクションです」と絶賛するのは、直木賞作家の篠田節子さんだ。

  • 篠田節子

 もともとガンダーラ仏が好きで、アジアギャラリーがある同博物館の東洋館にはたびたび足を運んでいたという篠田さんだが、今回の展示では初見の仏像も数多くあった。

「どれも素晴らしい仏像で大変楽しんで拝観したのですが、仏像が誕生する以前、紀元前2世紀頃に彫られたレリーフや、紀元一世紀頃、ガンダーラと同時多発的に発展した北インドのマトゥラーで造られた仏像、そしてインドから仏教が姿を消す寸前に造仏された密教仏などは特に目を引きました。日本ではなかなか見ることのできない貴重な資料です」

展示会場となっているのは本館の左手、華やかなドームが目引く表慶館。テーマごとに8つのパートに分け、仏像がどのようにして生まれ、変化していったかをわかりやすく体感できるよう構成されている。

  • 篠田節子

「インドの仏像というと大抵はガンダーラ仏が引き合いに出され、もっぱらギリシャ・ローマ彫刻との関係で語られがちですが、マトゥラーの仏像は土着の肖像彫刻の流れに属すると教えてもらいました。やっぱりインドにはインド独自の伝統があったのですね。それにガンダーラ仏のお顔だって、改めて見てみるとやはりインドアーリア系の顔立ちをしている。仏像が好きな方なら、きっと新たな発見がたくさんあると思います。さして興味がないという方でも、並ぶ仏像はどれもハンサムですから(笑)、彫刻美術として楽しめるのではないでしょうか。女性の姿で表されたブッダや、肉感的な造形と台座のウリボウ(猪の子)が魅力の摩利支天など、日本ではまず見られないセクシーな女尊像も見どころです」

  • 仏伝「誕生」

    仏伝「誕生」
    ナーランダー出土 パーラ朝(10世紀頃)
    Photograph(C)Indian Museum, Kolkata

  • 摩利支天立像

    摩利支天立像
    バレンドラ・ブーミ派 パーラ朝(11世紀頃)
    Photograph(C)Indian Museum, Kolkata

篠田さんは昨年12月に現代インドを舞台にした小説『インドクリスタル』を上梓したばかり。執筆にあたってインドのあらゆる側面に対し綿密かつ多彩な取材を重ね、現地訪問もした篠田さんの目には、このコレクションはまさにインドの懐の深さを象徴しているように感じられたと言う。

「ご存知の通り、現在のインドは国民の8割がヒンドゥ教徒で、仏教を信仰する人は極々少数です。その数少ない仏教徒も、実は20世紀になって独立インドの指導者の一人アンベードカルが主導した仏教復興運動によって新たに仏教徒となった方々がほとんどであって、インド仏教は13世紀に一度実質的に滅んでいるのです。ですから、近代以降のインドにとって、仏教遺跡や仏像などは異教徒の遺物に過ぎなかったはず。それなのにこれだけしっかり保存されてきたというのは、インドの人々の寛容性、そして文化遺産を宗教的イデオロギーとは切り離して評価できる世俗性あってのことだと思います。日本のように仏教の影響を強く受けている国は、貴重な文物をしっかり保存してくれていた彼の国に感謝しなければならないでしょうね」

展覧会は5月17日(日)まで。開催期間は、上野公園の花や新緑が一際美しい季節。散歩がてら足を伸ばし、春の樹々にも負けない生命力をみなぎらせるインドの仏様に会いに行けば、きっとパワーをもらえるはずだ。

⇒東京国立博物館ウェブサイト

インド・クリスタル

■『インドクリスタル
著:篠田節子
発行:KADOKAWA
定価:1,900円(税別)
因習と開発、資本と搾取の間で揺れるインドが舞台のビジネス冒険エンタメ!
人工水晶開発の為、マザークリスタルの買い付けを行う山峡ドルジェ社長・藤岡。インドの村の宿泊先で使用人兼売春婦をしていた少女ロサを救い出し、村人と交渉・試掘を重ねる中で思いがけない困難に次々と直面する。

取材・文=門賀美央子