『王妃の館』で腹筋崩壊・涙腺決壊! 超豪華パリ旅行の華麗な顛末とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/20

パリの超高級ホテル、シャトー・ドゥ・ラ・レーヌに10日間宿泊するという超豪華ツアー。倒産間近の旅行会社が企画したこのツアーは、実はとんでもない詐欺企画だった。参加費150万円の光(ポジ)ツアーと20万円の陰(ネガ)ツアーを別個に募集し、意図的にダブルブッキングさせたのだ。観光スケジュールをずらし、ホテルも協力して、ひとつの部屋を2組に使わせる。もちろん客には気取らせずに。

この2種類のツアー客が絶対に顔を合わせないよう、ツアコンは四苦八苦。おまけに客たちも、揃いも揃っていわくありげ。上司と不倫の末にリストラされたOL、借金を抱え心中目的でやってきた夫婦、ベストセラー作家と編集者たち、成金カップル、詐欺師のカップル、恋人を追ってきたオカマ、元警官……ツアーに光と陰があるなら、ツアー客たちにも光と陰がある。すんなりいくはずがない。もちろん事件続出トラブル頻発。このドタバタ珍道中、さてどうなる?

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浅田次郎は「泣かせる」傑作が多い作家だが、散々笑わせておいて油断したところに泣きのスイッチを仕込む、という技に特に長けている。たとえば「プリズンホテル」シリーズ(集英社)が好きな読者は、間違いなく本書『王妃の館』(集英社)が気に入るだろう。今回も、登場人物のドタバタに腹筋が崩壊しそうなほど笑い、ふとした場面で見せる人情場面に思わず目頭が熱くなった。こういうのを書かせると浅田次郎は本当に巧い。ギャグにも泣かせにも、まったく筆を休ませることなく、あざといほどにたたみかけてくる。

王妃の館』はドタバタの現代パートと、コンシェルジュが語りツアー客の作家が小説にしたルイ14世時代のパートで構成されている。この現代パートはまさに予定調和。しかし単なる予定調和ではない。浅田次郎はわざと早い段階で手の内を読者に見せる。だから読者は先を読めるし、その通りに進む。なのに感動する。なのにカタルシスがある。それはお約束の展開をお約束以上に見せる描写力と、「よくぞここまで」と思うくらい細部まできっちり練られた構成ゆえだろう。確かにあざといし、ベタである。けれど浅田次郎は、あざとさとベタを超級のエンタメに仕上げるという類稀な手腕を持った作家なのだ。『王妃の館』はその証明と言っていい。

一方、 作中作のルイ14世時代の物語は、これまたベタなまでに泣かせにかかる。こうなるってわかってるのに、その描写に、文章に、泣かされる。まさに浅田次郎の真骨頂。わかってるのに泣いてしまう、笑ってしまうって、すごいことだぞ? おまけに物語が展開されるのはヴェルサイユだのルーブルだのとこちらも豪華。舞台も人物も構成もこの上なく贅沢なこの長編。映画でどう料理されるのか、実に楽しみだ。

文=大矢博子

『王妃の館』(浅田次郎/集英社)