育成の星、ドラ6のメシア、1型糖尿病、再起の元エース。阪神のサウスポーがペナントを熱くする

スポーツ

公開日:2015/4/6

 今期の阪神タイガース投手陣は、個性豊かなサウスポーを多数擁している。
 高校時代のウイルス感染がもとで1型糖尿病を発症し、インスリン注射を打ち続けながら、昨年ついにリーグ2位の防御率を記録するなど、抜群の安定感を示した岩田稔。
 今期初登板の神宮ではスワローズの新4番・雄平に一発を浴びたものの、ここ数年タイガースのエース格として君臨し続け、昨シーズン後の契約更改では生涯タイガースを宣言。今期は昨年のリベンジを期すシーズンとなる、ポーカーフェイス・能見篤史。
 昨年4月、キラ星のごとく1軍デビュー。ドラフト6位と下位指名での入団だったにも関わらず、球の出どころが見づらい独特のフォームで5勝をあげるなどシーズンを通してチームに貢献した岩崎優。

 そして今年、育成枠から這い上がって支配下登録を勝ち取るとオープン戦でも結果を出し続け、ついに4月2日の神宮で2回無失点と鮮烈な1軍デビューを果たした島本浩也(ちなみに岩崎の初登板も同じ日付、昨年の4月2日である)。

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 メッセンジャー、藤浪晋太郎、岩本輝を加えた6人のローテーションピッチャーのうち、3人が左腕という贅沢なピッチングスタッフを抱えるタイガースにあって、サウスポー陣は実力のみならず、エピソード面でも実に個性が豊かだ。

 エピソード豊富な阪神タイガースのサウスポー、と言えば今年2月の春季キャンプで臨時コーチに就任した江夏豊氏の存在は無視できない。数々の名監督と衝突し、5球団を渡り歩いたのち大リーグに挑戦。全盛期の長嶋茂雄氏や王貞治氏と渡り合った同氏の活躍は、孤高のレジェンドとして今でも語り継がれている。

 その江夏氏が先日開催された自著『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』の出版記念イベントで、あの大野豊氏の名前を出しながら言及したのが島本浩也だ(島本は同キャンプで「江夏賞」として同氏からグローブを贈られている)。

 島本は江夏氏と同じ奈良県の出身で2011年、阪神タイガースに入団。育成枠の出身で、プロとしては華奢な体型ながら、140キロ台中盤の速球と堅実なコントロールを身につけるなど着実な成長を遂げ、ついに今年の春季キャンプでは1軍枠を勝ち取った。そのままの勢いで11戦に登板したオープン戦は、すべて無失点。抜群の安定感で首脳陣にアピールし、開幕一軍の座を手中に収めたのだ。

 ついに4月2日のスワローズ戦でデビューを果たした島本だが、視線は既に先を見据えている。地元・奈良県のボーイズリーグでバッテリーを組んだ亡き友・吉川将聖さん(当時16歳)に誓った聖地・甲子園での初登板だ。

 敦賀気比高校の優勝で幕を閉じたセンバツ高校野球大会。4月7日(火)のDeNA戦がタイガースにとっての本拠地開幕戦となる。

 能見、岩田、岩崎らがしのぎを削る阪神左腕投手陣の中で、シンデレラボーイ・島本浩也がどこまで彼らに喰らいつき、球児たちの熱気が冷めやらぬ聖地で輝けるのか。2005年以来遠ざかっている優勝の鍵は、彼が握っているはずだ。

■『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』(江夏豊、松永多佳倫/KADOKAWA メディアファクトリー)