書けども書けども、なぜあなたは一次選考すら通らないのか? 小説新人賞受賞にぐっと近づく方法

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

国語の授業で小説を読み、作品について考え、感想文を書いてきた日本人にとって、小説は子どもの頃からそばにある身近なもの。上手く書けるかは別として誰にでもはじめられる気軽な芸術であり、エンターテインメントなのかもしれない。

小説を書きたい、小説を出版したいと思った時に、まず思い浮かぶのは小説新人賞ではないだろうか。小説新人賞の応募者は多いところで2000人ほど、少なくいところでも3桁台の応募数がある。しかし、新人賞に応募する人の多くは受賞どころか一次選考すら通らない。一次選考突破ですら狭き門なのだ。

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デビュー作を書くための超「小説」教室』(高橋源一郎/河出書房新社)では、数々の小説文学賞の選考委員を務める作家 高橋源一郎氏が新人賞受賞に向けてのアドバイスを送っている。本書から小説新人賞受賞にぐっと近づく方法を探ってみよう。

新人賞は玉石石石石混淆

小説を書く人は増えている。応募数も多い。とはいえ、みんながみんな素晴らしい小説を書いているわけじゃない。

高橋氏は小説新人賞いついて石のほうが多いので“玉石石石石混淆”だと言う。それを覚悟したうえで、選考委員をやめたいと思ったことは一度もないと言う。その理由は「わたしの想像もつかないような新しいものが、そこにはあるのではないかと期待しているからです」と語る。高橋氏の発言からも選考委員の面々は、素晴らしい小説と出会うことを期待しているわけではなく、新しい才能と出会うことを期待しているのだとわかる。また、本書には新人賞は完成度よりも可能性を重視する場だということも書かれている。

では、実際に応募する際に気をつける点はあるのだろうか。

高橋氏は2つあると語る。まず1つ目は、流行やジャンルの垣根を吹き飛ばす自分のテーマにこだわること。そして、2つ目は、各賞の傾向がわかるなら真逆に突っ走ること。前者は新しいものを送り出す新人賞で、よく見かける流行のものを送っても意味がないからだ。そして後者は選考委員の面々は傾向で新人賞を判断しているわけではなく、良い小説を送り出したいと思っているからだ。基本的には傾向は応募者が作り上げるものという高橋氏は、傾向と真逆のものを送るだけで人目を引くと語る。

新人作家の条件

新人賞に送る際の注意点はわかった。しかし、選考委員は何を基準にして新人作家を選んでいるのだろう。

本書に記載されている、高橋氏と保坂和志氏との過去の対談で高橋氏は「新人賞に応募するために郵便局に送ったんだけど、出した瞬間にものすごく恥ずかしくなった“俺はとんでもないことをやった”って(笑)」とデビュー前に新人賞に応募した時のことを話す。このことについて高橋氏は「書ききって、いちおう完成させて、手離した瞬間、そこで、ようやくわたしには、作家になれる可能性が、出てきたのです」とも話す。

これは書いている時には“書く他者”がいたため、“読む他者”になれなかったからだと言う。書きはじめた当初は誰もが“書く他者”で精一杯だが、やがて“読む他者”が出て来る。客観的に自分の作品を読む“読む他者”が現れることが新人作家の条件の1つと言える。

その他にも、言わなくていいことまでも言ってしまうような恥じらいがあることも新人作家の条件であるという。高橋氏は「デビュー作に許されているのは、限界を超えて、一度、自分を解放し、すこし言いすぎてしまうところです。すなわち、それって、生きることは恥ずかしい、を体現することです」とも話す。

本が売れない時代だからこそ、なかなか小説の出版までの道のりは遠く、小説の新人賞に応募して、たとえ受賞したとしてもなかなか出版されないことも多い。しかし、どうせ無理だからと諦めてしまわないで、本書を読んで今一度自分の小説と真摯に向き合ってみてはいかがだろうか。自分の小説を切り開く、新しい何かが見つかるかもしれない。

文=舟崎泉美