紫式部はネガティブ・マインドなネクラ女子だった!? 『人生はあはれなり… 紫式部日記』が描く等身大の姿に超共感 <作者インタビュー前編>

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/20

女性同士のライバル関係を傍観するのは、いつの時代もおもしろい。聖子ちゃんと明菜ちゃん、前田敦子と大島優子、浅田真央とキム・ヨナ etc……。「私はどっち派!」と口さがなくいい合うのは、あまり上品なこととはいえないけどいい娯楽になる。歴史上、文学史上、ライバル同士と目され、何かと比較されてきたふたりといえば、清少納言と紫式部。ほぼ同時代に、世紀を超えて読み継がれる名作を生み出したふたり。中流階級に生まれながらその才が認められ宮中で仕えるようになるという境遇こそ似ているが、その性格、気質、世界を見るまなざしは大きく違う。いや、驚くほど正反対である。

2014年に発表したコミックエッセイ『本日もいとをかし!! 枕草子』につづき、今春『人生はあはれなり… 紫式部日記』(ともにKADOKAWA)を著し、二大女流作家の人となりをユニークな視点で掘り下げたイラストレーターの小迎裕美子さん、監修の赤間恵都子さん(十文字学園女子大学文芸文学科教授)に、清少納言=ナゴンと紫式部=シキブ、それぞれの魅力、いまを生きる女子の共感ポイントをうかがった。

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>>後編を読む 「Facebookをやったら周囲にイラッとされるのはどっち? 紫式部と清少納言、平安の才女ふたりが現代を生きたら…」

――なにかと比較されやすいふたりですが、清少納言について描いた後に紫式部を描くというのは、やはり必然的な流れだったのでしょうか

小迎裕美子さん(以下、小)「『本日もいとをかし!!~』は、紫式部による清少納言評からはじまっています。清少納言ほどムカつく女はいない、とストレートな批評が書き残されているので、それを読んだ私は、知的で陽気、毒舌だけど美意識の高さがうかがえるナゴンのような素敵な女性をこんなに悪くいうなんて、シキブってなんてイヤな女だろうと感じていました……が、いざ『紫式部日記』をちゃんと読んでみると、思いっきりシンクロしまくりました。ネクラでマイナス思考全開で、自己評価が低い。他人とは思えませんでしたね」

――宮中の池を優雅に泳ぐ水鳥を見ては水面下でもがく辛さを想像し、典雅な人が載った牛車を見てはそれを曳く担ぎ手の苦労を思うシキブは、源氏物語という大作を残した稀代の才女というイメージからはあまりに遠くて、意外でしたね。

小「おかげで浮いた話もほとんどないシキブでしたが、だからこその妄想を源氏物語に落とし込んだのでしょう。私にとっての源氏物語への入口は、漫画『あさきゆめみし』ですが、好きなキャラクターは朧月夜! 対して、男性キャラは魅力を感じない……というか、全員キモチワルイとすら思ってしまいます。身勝手だし粘着質でストーカーっぽくなる人もいるし。シキブには華麗な恋愛遍歴もなく、父は変人で弟は頼りない……。すてきな男性を見る機会が少なかったようです。おまけに鋭い洞察力を持ちながら、何ごともネガティブ思考で見るので、男性のマイナス面ばかり目についたのかもしれませんね」

――シキブのそういうところに共感される、と?

小「私も何でもマイナスに受け取ってしまう傾向があるので。清少納言や紫式部についての本を出す、と周囲の女性に話すと、かなりの確率で『私、国文学科出身なんですよ!』と返ってくるんです。私はそれを聞いて、『あ~、私は国文学科じゃないし、枕草子も源氏物語もちゃんと勉強したわけじゃないし……すみません、私なんかが書いて』と恐縮していたんですが、それを友人に話したら、『それは、私もその時代の文学についてよく知っていますよ、たくさんお話しましょう、っていう友好的な意味だよ!』と教えられました。私、なんてネガティブにとらえていたんだろう! って目からウロコですよ(苦笑)。どこまでもシキブ・マインドなんです」

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