【延滞、取り立て…奨学金の実態】社会人生活のスタートは返済生活のスタートでもあった…

社会

更新日:2015/4/10

 不鮮明な「奨学金」の存在意義。国会や報道など各方面でも取りざたされているが、いまだその立ち位置が見えないままでいる。世間では新社会人たちが活躍し始める季節でもあるが、初々しくスーツを身にまとった彼らの中には、これからその返済への苦労や葛藤に悩まされる人たちもおそらく出てくるのだろう。

 そもそも近年、なぜ日本の奨学金制度がこれほどまでに議論されているのだろうか。本来求められる役割と実態に乖離がみられるとの指摘もあるが、情報が散見される中、奨学金問題対策全国会議の書籍『日本の奨学金はこれでいいのか! 奨学金という名の貧困ビジネス』(伊東達也、岩重佳治、大内裕和、藤島和也、三宅勝久:著、奨学金問題対策全国会議:編/あけび書房)にもとづき、いま一度、問題点を整理していきたい。

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 ひとたびネットで検索しても、奨学金に続くキーワードは「返済」「経済状況」、ともすれば「人生終了」などと、不可解なものが並ぶ。その一つの要因として、奨学金制度に対しての「世代間」による認識の違いが一つの要因だと同書は述べている。

 文部科学省によれば、奨学金には「優れた学生などであって経済的理由により修学困難な者に対し、奨学金を貸与する」目的があるという。しかし、1984年の日本育英会法の全面改正がきっかけとなり、当初の仕組みが大幅に変更された。無利子貸与奨学金から、いわゆる「学生ローン」とも指摘される有利子貸与奨学金の創設である。

 当初は大学生や短大生を対象としていたが、段階的に大学院生、専門学生に範囲も拡充。さらに、1999年の「きぼう21プラン」と名付けられた、一定の希望額による返済を可能にした第二種奨学金が導入され、貸与者がさらに増加したという。

 日本育英会から2004年に改組された日本学生支援機構(JASSO)。現在、もっとも多くの利用者を抱えているというが、ホームページ内にある「奨学金の返還促進」では、平成21年度の貸与者は118万人と述べる一方、返還されるべき金額が3983億円、うち797億円が未返還となっており延滞人数では約34万人に達しているそうだ。

 奨学金を「貧困ビジネス」と称する同書だが、問題点の一部として「回収問題」へ言及している。JASSOは2010年8月、同機構内に債権管理部を設置。延滞から3カ月を迎えた時点で貸与者の情報を個人情報信用情報機関(全国銀行個人情報信用センター)に登録、4カ月後には債権回収専門会社に委託し、さらに9カ月後には裁判所を通した「支払い督促」を開始するよう奨学金回収を強化しはじめたという。

 大学全入時代ともいわれて久しいが、本来、将来の生活をより充実させるために進学を決意した先で、奨学金が足かせとなる状況は必ずしも健全とはいえないのではないだろうか。長期の返済にじわじわと苦しみ始め、やがては「自己破産」へ至るケースもあるという。都道府県ごとの弁護士や司法書士などが手を取り合う奨学金問題全国対策会議では、相談も受け付けている。一人で悩まず、救済を求めて専門家に頼るというのも解決へ向けた糸口となりうるのではないだろうか。

文=カネコシュウヘイ

◎奨学金の返還促進|日本学生支援機構(JASSO)
◎奨学金問題全国対策会議