「女が死んでいる」発売記念対談 貫井徳郎×藤原一裕

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/20

  • 貫井徳郎
  • 藤原一裕

貫井徳郎が描く 最悪な男
ダ・ヴィンチビジュアルブックシリーズ『女が死んでいる』対談WEBバージョン

ダ・ヴィンチから小説の新しい楽しみ方を提案する「ダ・ヴィンチビジュアルブックシリーズ」がスタートした。第一弾は、作家・貫井徳郎さんと芸人・ライセンス藤原一裕さん。モデルのイメージで小説が生まれ、その小説を元にビジュアルを作る。そんな豪華なコラボレーションの第一弾を担っていただいたお二人に、現在発売中の『ダ・ヴィンチ』6月号で話を聞いている。ここでは本誌に載せられなかった続きを掲載!

取材・文=藤原理加 写真=木村隆宏

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――ダ・ヴィンチ本誌でも対談していただきましたが、今回の小説×写真『女が死んでいる』は、貫井さん藤原さんともども、意外な反響があったそうですね。

貫井 そうですね。最近の僕は、ちょっと難しめな小説というか、テーマなども普段、本を読んでないような人には、ちょっととっつきにくいようなものを書いていて。でも今回は、僕の読者ではない人、ミステリーも読んだことがない人も手に取るかもしれない。だからとにかくシンプルで、でもミステリーの面白さがちゃんとわかる話にすることを意識したんです。その結果、「人生で本を3冊しか読んだことのない」という方もすごい面白かった、読みやすかったとツイッターで言ってくれて、それはすごく嬉しかったですね。

藤原 僕のほうも、これが発表になって、かなりびっくりな反応がありましたね。たとえば、読売テレビのお偉いさんが、全然、関係ない現場で大興奮して喋りかけてきてくれて「すげぇな、すげぇぞ、あれ! わかってんのか、おまえは、このすごさが!」って。「いや、わかってますよ」と(笑)。

――また、藤原さんのお母さんも、早速、書店で買われたとか。

藤原 はい。で、レジでお金払うとき、店員さんにちゃっかり「これ、うちの息子なんです」と(笑)。うちの親は、もともと本が好きで、貫井さんの小説もファンだったんで、そうとう嬉しかったみたいです。

――でも、藤原さんの写真も、本当にばっちりハマっていました。

貫井 ですよね。結局、僕が責任持てるのは小説の範囲でしかない。そこから先はお任せなので、どうなるかというのは、正直、わかんなかったんです。でも藤原さんの写真が上がってきたとき、ほんとに僕の書いた小説のイメージ通りの写真がバシバシハマってたんで、あ、これはいい本になるなと確信しました。

――貫井さんは、とくにどの写真がお好きでしたか?

貫井 やっぱり、これ(「女が死んでいる」55P)ですよね。僕ね、主人公の職業をあえて途中まで隠してるわけですよ。で、中盤になってようやくホストって書いたら、この写真が出て来るっていうね。このビジュアルブックシリーズ、この後も続くわけなんですけど、次の書き手の方がモデルの方にこれ以上いい格好をさせるのはかなり難しいんじゃないかと思います(笑)。

藤原 これ、じつは、ルミネの楽屋で撮ったんです。ルミネの、普段、カウスボタン師匠が入ってる楽屋で。

――そのとき、テレとかなかったんですか。

藤原 なかったですね。これは逆に、僕のなかでは、「笑える」じゃないほうの面白い仕事。それこそ、「おまえ、何やねんあれ、どんな流れでああなるねん」って言われるほど、いちばん嬉しい感じの仕事でした。

――藤原さんは、芸人としてだけでなく、役者さんとしても仕事をされていますが、今回のビジュアルブックでの一人芝居は、また勝手が違いましたか?

藤原 やっぱり、声が使える、使えないは、大きいですよね。普段は、声と、身振り手振りで伝えることが大きいので、そういう部分じゃなくてやるというのは。で、とくに大変だったのは、やっぱり、ラストの海辺の写真ですかね。年末の幕張の海やったんで、ものすごく寒くて、まず物理的に大変でした。で、感動したのは、最初のページと最後のほうに出てくる(94P)、目のアップ。けっこう最後のほうに撮っていただいたんですけど、これ、悪い奴の目やなと思いました、自分で(笑)。

貫井 でも、そういう表情を作ったりというのは、藤原さんにとっては、いわゆる本業じゃないわけですよね? 撮っているとき、そういう本業じゃないことをしてる感というのは、あったんですか?

藤原 本業じゃないので、やっていて、たぶん変なプレッシャー感じないんですね。ドラマや映画の仕事をいただくときも、そっちが呼んだよね、っていう気持ちがどっかに(笑)。

貫井 じゃあ、逆に良かったんですね。

藤原 はい。だから、これをほんまの役者さんがやったら、ものすごいプレッシャーだったかもしれないですね。

――貫井さんは、どうでしたか? 本業として。このラストとか、よく思いつかれるなと。

貫井 それはそうなんですけど、まあ、仕事にすれば、何とかなるもんですね(笑)。それよりは、やっぱり、ライブでアドリブで喋るほうが大変だなと思います。

――藤原さんは、ライブで上がるということは、ないんですか?

藤原 あります、あります。舞台でもTVでも、いつも緊張してやってますね。逆に、緊張せんようになったら、アカンやろとも思ってます。僕は花粉症なんですけど、漫才やってるときは、くしゃみなんか1回もしたことない。結局、精神なんですよね。緊張は、アレルギーを超える。

貫井 すごいですね、それ。我慢しようと思ってできるもんじゃないですもんね。

――ほんとに、それだけのめり込んでるんですね。ところで、貫井さんは、嫌な奴を書いているとき、嫌な奴になったりすることは、ないのでしょうか?

貫井 小説家って、映画作りでいうと、監督とか脚本家みたいなもんだと思われがちですけど、そうでなくて、僕は、俳優だと思ってるんですよ。事前にキャラ作りはしなくて、そのときそのときで、主人公になりきって書いてるんです。だから、台詞でも、自分の反射で、嫌な奴になりきって、「あ、こいつなら、こういうこと言うな」と書いてる面がすごくある。だから、やっぱり、嫌な奴書いてるときは、嫌な奴になってますね。

藤原 あははは。だって、そいつの気持ちになりきってるわけですもんね。

――反射神経で、書いている。それは、今回、初めてお聞きした、すごいいいお話ですね。そして、それもまた、お笑いにも通じるところですよね。

藤原 そうですね、やっぱり、いちばん大事でしょうね、ネタ以外では。ネタはじっくり考えて出しますけど、とくにバラエティなんかは、反射神経がなければ。で、もちろん、役者さんもそうでしょうけど。

――つまり、今回は、おふたりとも、最高に悪い嫌な奴になりきった作品だと(笑)。で、ほんとに、それがカッコイイですよね。

藤原 そうですね。だから、僕のことを知らなかった人が、これだけ読んで、僕のことをこいつ嫌な奴なんやろうなって思ってくれてたら、すごい嬉しいし、今後、僕をテレビで見て笑ってくれたら、もっと嬉しい。で、この本をきっかけに、貫井さんの小説に入門してくれたら、やった甲斐があるなと思っています。

貫井 ほんとにね、そういう意味でも、これはすごい画期的な、新ジャンルの小説になったと自負しています。で、これをドラマにしてほしいという声も、すでに、けっこうあるんですよね。そうなったら、ぜひ頑張ってください。ただ、僕はもう何もしないから(笑)。

藤原 あははは、どうですかね。もし来たら、もちろん有り難いですけどね(笑)。

 

プロフィール
ぬくい・とくろう●1968年東京都生まれ。93年、『慟哭』で作家デビュー。2010年『乱反射』で日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で山本周五郎賞を受賞。主な著書に『私に似た人』『我が心の底の光』など。

ふじわら・かずひろ●1977年奈良県生まれ。96年、井本貴史とお笑いコンビ「ライセンス」を結成。第29回「NHK上方漫才コンテスト」優秀賞受賞。トークライブ「LICENSE vol.TALK」ほか、テレビ、舞台でも活躍中。

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作品紹介

女が死んでいる
作/貫井徳郎  モデル/藤原一裕
KADOKAWA 1500円(税別)

二日酔いで目覚めた朝、密室のマンションのベッドの横の床に何かがあった。見覚えのない女の死体。おれが殺すわけがない。では誰が殺したのか――。貫井さんが藤原さんをイメージに書き下ろした「最悪の男」を、藤原が表情だけで演じきる。二人のコラボによって、これまでにないミステリーが誕生。意表をつく結末も必読。