あなたの隣人は本当に「人間」ですか?『鉄民』待望の1巻が発売

マンガ

更新日:2015/10/9

 隣の住人が何を考えているか分からない。電車で隣り合った乗客が、突然殴りかかってこないとは言い切れない。毎春、先輩上司が新入社員に対してぼやくように、周囲は「宇宙人」だらけである。SFホラー映画『遊星からの物体X』のように、友人知人が知らない間に宇宙人と入れ替わっているなんて現実世界ではあり得ないだろうが、現代社会における人間関係の希薄化は、私たちに言いようのない孤立感と不安感を抱かせる。

 本当に隣人が人間ではなかったら…。平和な日常が一気に崩れ去る恐怖を描くのが、双葉社から配信されているウェブコミック配信サイト「WEBコミックアクション」で連載中の『鉄民』(菅原敬太/双葉社)だ。4月28日に待望の1巻(1~8話)が発売された。主人公の滝沢実絽(みろ)は、海と山に囲まれた沙々来(ささらい)島で暮らす女子高生。高所、対人、閉所、暗所、昆虫、先端ほか、さまざまな恐怖症を持つ以外は、平凡な少女である。都会に比べ、田舎は人との繋がりが強いといわれる。恐怖症に悩まされる実絽だが、生まれ育ってきた環境で培った良好な人間関係に助けられ、平穏に生きている。

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 そんな平和な日常が、奇妙な携帯電話を拾ったことで一転する。その携帯を携帯の主に届けるべく誘導された薄暗い神社で目撃したのは、人が襲われている現場。襲っているのは、倒れている人と同じ姿をしたロボットのような存在だった。実絽は辛くも逃げ切るものの、携帯の主から「島の住人の10分の1くらいは、すでに『鉄民』という連中に置き換わっている」という驚愕の事実を知らされる。この鉄民は、ターゲットの顔や服をそっくり真似し、拉致して記憶をうつし、入れ替わって日常に溶け込む。目撃者は必ず連れ去る。島内で一体誰が鉄民なのか? 携帯の主の言葉を信じるならば、確率は10分の1である。1割の人間に、命を狙われる立場になる実絽。しかも、自分は非力な女子なのに対し、相手は怪力かつ俊敏、冷徹な鉄の塊である。

 どう逃げ切るのか。手に汗にぎる知略戦が始まるのかと思いきや、あっけなく鉄民に捕まり、コンクリート壁に頭を打ち付けられる。そして、実絽は自分も鉄民であることに気づくのである…。1話目にして、展開が目まぐるしく動く。

 周囲の人間は信じられない。自分の存在は一体。絶望的な状況を、どう打開していくのか。「こんな設定はあり得ないけれど…もしかしたら」。そんな気持ちで読むと、恐怖度が一気に高まる。

文=ルートつつみ

鉄民』(菅原敬太/双葉社)