予想通りで予想外!? 日本のアニメ配信を直撃した中国動画サイトへの取締りについて

アニメ

更新日:2015/6/26

 中国オタク事情を連載している百元です。第11回は3月末に中国のオタク界隈で起こった、中国の動画サイトの日本のアニメに対する取締りとその影響などに関して紹介させていただきます。

予想通りで予想外な取締り

 今回の取締りは4月の新作アニメの配信情報が出始めた頃に突然行われたものでした。3月31日に「文化部が未成年を違法な犯罪に誘導する、未成年を暴力やポルノ、テロ活動、公序良俗を危険にさらすことをさせる内容のアニメ作品を提供した疑いで多くの動画サイトを調査処分リスト入りに」といった内容が報道され、その後中国の動画サイトで多数の日本のアニメ作品が視聴できなくなっていきました。

 実は中国の動画サイトにおける中国国外産を含む様々な動画配信はグレーゾーン的な面があり、営業許可証を発行された動画サイト側の自主規制に任されている所もかなりあります。

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 しかし近年は動画サイトの存在感が強まり既存のメディア関係の管轄や利権との摩擦が生じるようになってきていますし、動画サイト同士の商業的な競争の過熱によって「やり過ぎ」な所も目に付くようになってきていることから、海外ドラマやアニメなどに対してもいずれ何らかの規制や取締りは来るだろうという見方も存在しました。

 現に昨年既に国家新聞出版広電総局から、2015年4月からの動画サイトの国外コンテンツ配信に対する審査の厳格化に関する通知が出ており、海外ドラマ(そして日本のアニメも)を現地とのタイムラグをほぼなしに配信するというビジネスは厳しくなるだろうとされていました(ちなみにこちらの通知により海外ドラマに関しては厳しくなっているものの、アニメに関しては現時点で大きな変化は出ていない模様です)。

しかし3月末の取締りは広電総局とは別の部署である文化部からのもので、しかもアニメの内容に大きく踏み込んだものであったことから、現地の業界にとっても予想外、不意打ち的なものだったようです。それにより中国の動画サイト、オタク業界は大きな衝撃を受け、その混乱は5月に入った現在も収まっていません。

「テロ」が理由として最初に挙げられた取締り

 今回の取締りにおいて目をひいたのは「暴恐」(テロ)が取締りの理由として真っ先に挙げられ、その次に暴力やポルノが挙げられている点です。これは暴力とポルノが主な理由として挙げられていた中国のアニメに対する規制において今までに無い新しい動きと言えます。

 中国政府がどのような方向に方針を切り替えたのか、テロ賛美やテロを誘発する描写として問題になるのがどの程度のレベルなのか、またテロに関する感覚が現在とは異なる過去の作品に対してはどうなるのかなど、様々な面から現地でも非常に注目されています。

中国では「あの作品は大丈夫なのに……」は通じない

 今回の取締りでは少なくない数の日本のアニメが視聴できなくなったようですが、名指しで批判されたのは『残響のテロル』『Blood-C』『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の3作品で、このうち『残響のテロル』は正規に配信されていたものです(残り2つに関しては不明)。

 また他の視聴できなくなった作品の中には『進撃の巨人』、『寄生獣』『東京喰種トーキョーグール√A』『ソードアート・オンライン』などの中国で大人気となっていた正規配信の作品も含まれていたため、中国のオタク界隈は一時的に恐慌状態となってしまいました。

 しかし実は今回の取締りに関しては基準がハッキリしないという中国ではありがちな所も見て取れます。例えば『東京喰種』は第一期の方は現在も視聴可能のようですし、他にも『アカメが斬る!』や『クロスアンジュ』などの中国で正規配信され人気になると共に、先述の視聴不可になった作品以上に過激さが話題になった作品が現在も視聴可能な状態になっている模様です。

 この辺りに関して日本の感覚では、「あの作品が大丈夫なのに、この作品がなぜダメなのか……」と引っ掛かりを覚えてしまう所ですが、中国の規制は明確な基準が出ない、ガイドラインが不明なケースが多い上に、表に出ている理由が全てではないと考えられるケースも珍しくありません。一律に全てをというのではなく、影響の強い所を効率的に取り締まって睨みをきかせ、細かい所は現場側に委ねるといったやり方になることもあります。

 そのため中国における規制や取締りでは意外な作品が生き残ることもありますが、「これならば安全」という基準も分からないことから、事前に確実なリスク回避の手を打つことは困難です。しかしこれは中国でコンテンツを展開する上では避けられないリスクでもあります。

今後への影響

 今回の取締りにより中国の動画サイトで4月に予定されていた新作アニメの配信も大混乱となりました。事前に告知があったのに配信されなかった作品が出ましたし、配信されている作品に関しても、例えば『血界戦線』はタイトルが問題視されたのか中国語タイトルを『幻界戦線』に変更されていたり、『食戟のソーマ』は作中の一部シーンに自主規制が入ったりなどしているそうです(もっとも「血界戦線」も「食戟のソーマ」も自主規制が入ったことにより逆に注目が集まり、当初の予想より随分と高い人気となっているという話も……)。

 また規制に関する情報も混乱しており4月の終わりから5月の初めにかけて「『名探偵コナン』と『ONE PIECE』まで規制の対象になる!」というデマが広がって大騒ぎになり、「これはデマ」だと断言する発言がCCTV新科動漫チャンネルのweiboなどの公式ルートから出てようやく沈静化するといった事件も起こっています。

中国の動画サイトに日本のアニメコンテンツの需要があるのは変わりませんし、すぐに日本のアニメが全滅するということはないでしょうが、今までのようにはいかなくなったのも間違いありません。今回の取締りにより中国の動画サイト側も様々なリスクを意識するようになっているそうで、例えば契約が突然の規制強化が行われた際のリスクを考慮したものになったりするなどの動きが出ているという話もあります。

中国の動画サイトにおける日本のアニメ配信ビジネスも、ある種のチャイナリスクと向かい合わなければならない状況になってきているようです。

文=百元籠羊