今や独身男性の10人に1人が「専業主夫」希望 ―強くて明るい、主夫生活のガイドブック!

生活

更新日:2015/5/24

 主夫になりたい男性が増えている。2014年に実施されたツヴァイによる「結婚意識調査」では、独身男性の10人に1人が「結婚したら専業主夫になりたい」と答えている。また、2009年に家事検定実行委員会が行った「家事力調査」でも、東京に住む男性の3人に1人は「専業主夫になってもよい」と考えているようだ。同調査では20代既婚女性の72.7%が「男性が家事をすることはカッコイイ」と答えた。

 しかし、実際に主夫になってみるとそれなりに苦労があるようだ。昼間から男性が外をうろついていることでご近所から奇異の目で見られたり、はたまた「穀潰し」だの「ヒモ」だのと呼ばれたりと、道のりは困難だ。『主夫になろうよ!』(佐川光晴/左右社)では、そんな一面がさらりと描かれていながらも、主夫として生きることの素晴らしさが高らかにうたわれている。これから主夫になる人や、まさに今主夫として暮らしている人には欠かせない1冊だろう。

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 著者の佐川光晴さんは作家で、家事の合間に集中して執筆している。佐川さんの日常は、本書の中の「主夫の24時間」というコーナーで写真付きで綴られている。笑顔が印象的だ。妻の乃里子さんは小学校教諭として働いている。子どもは男の子が2人。上のお子さんは大学に進学すると同時に一人暮らしを始めたそうだが、下のお子さんはまだ小学生だ。育児に奮闘する時間は当分続くだろう。苦労も多いが、佐川さんにとっては、育児に誰よりも近くで関わっていけることは大きな喜びでもあるのだ。

 佐川さんは『おかえり、Mr.バットマン』(佐川光晴/河出書房新社)で、翻訳家兼主夫の主人公が熟年離婚を決断する様子を描いている。まさに自身の生活と似ている話だ。本書ではこれをようやく書き上げた後、洗面所の拭き掃除を始めて上機嫌になったエピソードも描かれている。現実世界はこの調子なので「これでは別居など夢のまた夢である」とぼやくオチには、思わず笑みがこぼれてしまう。また、本書には関係者に“伝説のエッセイ”と言わしめた「妻の容貌」も収録されている。「わざわざおおやけにする必要もないことだが、わたしの妻は美人ではない」という一文から始まるにもかかわらず、妻への愛がこもっている。他にも妻をちょくちょくネタにしているが、これが許されているのは家族間、また周囲との信頼関係が築かれているからだろう。

 佐川さんが主夫として生きることを選んだ発端は、「できることを、できる人が役割として担えばいいとおもう」という考え。実に自然でシンプルで合理的だ。本書の中の「主夫のお悩み相談室」では、実用的なアドバイスが次々に飛び出す。他人の言葉を借りずに自身の経験から語るさまからは、常識を打ち破って生きている人の強さが感じられる。まさにここが、プロレスラー棚橋弘至選手が「主夫って強いよね!」と本書を推薦している理由でもあるのかもしれない。

 最後には、世の男性たちに「エプロンを着けて、お皿を洗うことから始め」ようと呼びかける。爽やかな読後感に浸りながらもう一度表紙を開くと、扉絵が凝っていることに気付いた。佐川さんの全身を描いたイラストの上に、半透明の紙に描かれたエプロンとフライパンが重なる、着せ替え人形のようで楽しい仕掛けだ。主夫としても作家としても明るく活躍している佐川さんが、笑顔で読者を迎えているようだ。

 あくまで30代独身女性の私の感想にすぎないが、結婚を考えている男性にぜひ読んでもらって感想を語り合えたら最高だと感じた。これを読んで未来を話し合える相手ならきっとうまくいきそうだ。人生は長くて、さまざまな家庭や生き方がある。とにかく嫌みが感じられないので、男性側も素直な気持ちで読めるのではないかと思う。本当はもう少し育児に関わりたいと思っているお父さんたちにも勧めたい1冊だ。

文=川澄萌野