池上さんの“超訳”でよく分かる!「日本国憲法」の基礎知識

社会

公開日:2015/5/26

 最近、日本国憲法に関する話題が頻繁にニュースになっている。しかし法律関係の文章は、(丁寧に書きすぎなのか何なのか)口語からかけ離れた文体のため、ちょっと理解しにくい。現在、安倍内閣が進めようとしている「集団的自衛権の解釈変更」の話題なども、かなり重要な話だとは思うものの、そもそもの憲法の内容をよく理解できていないためか、一般人同士の会話ではほとんど話題に上らない状態ではないだろうか。とは言え、このままだと国民の多くが知らないうちに改憲が実現してしまう可能性も…。これはけっこう、ヤバイ気がする。

 そこで皆さんにオススメしたいのが、ニュース解説でお馴染みのフリージャーナリスト、池上彰さんが著した『超訳日本国憲法』(新潮社)である。同著は、随所で日本国憲法を池上さんテイストに“超訳”、解説しながら、併せてそのなりたちや海外の憲法の特徴なども紹介した一冊だ。その中から、筆者が気になった内容をいくつか紹介しよう。

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「憲法」は、権力者が守るべき最高法規

 同著によると、憲法には、国家権力を制限し国民の自由と権利を保障するものとして成長してきた経緯があり、「その国の権力者が守るべきもの」であるという。権力者とはつまり、公務員である。それに対して、国民が守るべき内容を定めたものが「法律」なのだとか。実際、日本国憲法の中に定められた国民の義務は、教育・勤労・納税の3つのみ。そしてその具体的な内容は、法律の定めによるとされている。ちなみに、権力者に憲法を守る義務があるということを規定しているのは、憲法第99条である(第99条は文語体でも理解しやすいため、超訳はなし)。

【日本国憲法 原文】
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

ただし言論の自由もあるので、憲法を批判したり改憲を求めることは認められているという。

天皇の憲法上の地位と、海外からの認識は違う

 現在の憲法は、天皇が「人間宣言」をした第2次大戦後に定められたが、第1章「天皇」から始まっている。これはなぜかというと、現在の憲法が「明治憲法の改正」として誕生したことに由来するという。明治憲法は「天皇が作って国民に配布した」という形をとっており、その形を踏襲しているわけだ。本著では、明治憲法と現在の憲法とで、天皇について定めた部分を比較しているので見てみよう。

【明治憲法 原文】
第3条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第4条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行ウ

【超訳】
第3条 天皇は神聖な存在で、その権限を侵したり、失礼なことをしたりしてはいけない。
第4条 天皇は国家元首であり、国のすべての仕事を行うことができる。ただし、その場合は、この憲法の条文にもとづいて行う。

 明治憲法では天皇の地位は神様(天照大神)の意思に基づくものであり、“神聖”で絶対不可侵なものだったため、その尊厳を侵すものは不敬罪に問われた。いわゆる「現人神」(あらひとがみ=人間の形をとっている神)だったのだ。一方、現行憲法では次のようになっている。

【日本国憲法 原文】
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第3条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

【超訳】
第1条 天皇は、日本という国の象徴であり、国民がまとまっているという象徴である。日本国民みんなが認めているから、天皇の地位がある。
第3条 天皇が国の仕事をする時は内閣のアドバイスと承認が必要で、その結果の責任は内閣が負う。

 他にも天皇の地位は世襲制、天皇や皇族が財産を誰かに譲る時は国会での決定が必要、など細かく定められているが、大きくは今の天皇の地位が国民全員に支持されているものであること、すべての国事の権限は天皇ではなく内閣(国民が選んだ)にあることなどが謳われている。また、不敬罪は廃止されている。

 このように、憲法上では「国のトップ(国家元首)である」とは定められていないものの、海外の大使の信任状(この人物を大使として認めてください、という出身国の国家元首からの挨拶状)は天皇なので、海外からは天皇が国家元首の扱いを受けているようだ。

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