夢のなかでほっぺたをつねると、どうなるのか?

科学

更新日:2015/5/29

 「あれってどうなるんだろう?」「どうしてなんだろう?」と、日常生活のなかで、ふと疑問に思うことがある。あなたは、たとえばこんなことを考えたことがあるだろうか。「夢のなかでほっぺたをつねると、どうなるのか?」。「痛い! 夢じゃない!」という場面を、マンガや映画などで見たことがあるかもしれない。

ほっぺたをつねっても夢のなかだから痛くない?
つねった瞬間に夢から覚める?
つねろうと思ってもつねることができない?

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 さまざまな推測があるだろうが、多くの人は「なんとなくこう思う」「こうかなぁ」といった理由を見つけ、解決した気分に浸っておしまいにする。しかし、『脳がシビれる心理学』(妹尾武治/実業之日本社)は、この思い込みをやめて、たとえば著者が専門とする「心理学」という科学のフォーマットに則ってきちんと解決しようと提唱している。肉体の衰えは目に見えるが、脳の衰えは目に見えない。脳の“さび”は、思考することで落ちていく。

「夢のなかでほっぺたをつねると、どうなるのか?」というクエスチョンにも、科学を用いて答えることができる。夢が夢であるという認識のもとに持続する夢のことを、「明晰夢」という。訓練を積んだ人は、明晰夢のなかで意識的に夢をコントロールすることができるそうだ。そこで、明晰夢の研究者が、ある実験をした。訓練を積んだ人に、明晰夢のなかでほっぺたをつねってみてほしいと依頼したのだ。

結果、

●痛みが感じられた
●しかし、痛みは現実でつねったときの数分の1程度に弱まる

というものだった。これを根拠とすると、「(かなり)痛い! 夢じゃない!」というのは科学的に正しいということになる。

 ところで、タンスの角に小指をぶつけて、「チキショー!」「くそー!」などと悲鳴を上げたことがないだろうか。ご存知のとおり、タンスの角に小指をぶつけると、とても痛い。さて、これについても実験が行われている。被験者に、摂氏5度の水に手をつけ続け、「チキショー!」「くそー!」などの罵り言葉を一定間隔で繰り返し発してもらい、どれくらい長く手を入れていられるかを計ったのだ。ちなみに、摂氏5度の水に手をつけるのは、危険がほぼなく痛みを適切に与える手法として確立されているという。

 この実験のあと、罵り言葉を意味のある言葉(実験では「椅子の形を表現する言葉」)にかえて再び行い、比較したところ、罵り言葉を発するほうが長く耐えられることがわかった。つまり、タンスの角に小指をぶつけて「チキショー!」「くそー!」などと口走るのは、痛みを抑制しようとするメカニズムに適っていると、科学的に証明されたということだ。

 別の実験によって、お金を貯めるためにはトイレを我慢できるようになるとよさそうだ、ということもわかった。空腹状態だと「金銭的にどん欲になりやすい」「性的な刺激に応じやすい」などと長くいわれていた。実験では、おしっこを我慢して意思決定が我慢型になるのかが確認された。

実験方法はこうだ。

(1)被験者に水を飲ませる。
(2)トイレを我慢させたまま45分間の課題に取り組ませる
(3)課題終了後すぐ、課題の報酬として、翌日に16ユーロを受け取るか、35日後に30ユーロを受け取るかを選択させる

この結果は、トイレに行きたい程度が強い人ほど、「35日後・30ユーロ」を選ぶというものだった。心理学的には、トイレを我慢する状態と、短絡的な報酬を我慢する状態とが相関したといえる。ある認知が別の事柄の特徴や評価を歪める現象を、心理学では「認知バイアス」という。別の「認知バイアス」の実験では、手洗いはイヤなことを忘れる(ぬぐいさることができる)効果があることもわかっている。

 本書では、身近な疑問に対し心理学を応用することで、「ムキムキにビルドアップした脳」が手に入るとしている。ちょっともの忘れが目立ってきたな、記憶力の衰えが…といった人たちに、ぜひ読んでいただきたい一冊だ。

文=ルートつつみ