アレをしてくる「ご主人様」が不快? 秋葉原メイドの本音

マンガ

公開日:2015/6/3

 秋葉原の街を歩くと、どの道を歩いていても、メイドの格好でビラを配る女の子たちに出くわす。彼女たちはそれぞれのお店で一体どのような仕事をしているのだろう。どういう気持ちでメイドという仕事を選んだのかに至っては想像もつかない。

 中川嶺子の著『職業としてのアキバ・メイド』(中央公論新社)では秋葉原で4年間メイドとして働いた経験を持つ著者がアキバ・メイドの実態をレポートしている。

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 メイドの仕事といえば、「メイド喫茶」のイメージが強いことだろう。男性客を「ご主人様」、女性客を「お嬢様」と呼ぶ…というイメージを持つ人も多いだろうが、呼び方はお店のコンセプトによって「旦那様」「親方様」など様々。メイドたちが客に料理やドリンクを運んだり、楽しく会話したり、チェキ(その場ですぐプリントされるインスタントカメラ)で撮影したり、ゲームをしたり…。仕事内容は様々であり、「萌え」要素の強い店だと、フードが美味しくなるように「萌え萌えキュン」などと魔法の呪文をかけたり、客がリクエストした絵や言葉をオムライスの上にケチャップで描いたりする。気を遣うのは客との距離感。一般的な接客業であれば、敬語を使うのが当たり前だが、メイドの接客は、タメ口の方がウケが良いという。フレンドリーな接客は女の子が自分に気を許していると感じる人も多いようだ。

 一口に「メイド」といっても、イマドキ、メイドたちが働くのは、「メイド喫茶」ばかりではない。中川氏が働いていたのは、「メイドリフレ(リフレクソロジー)」。一般的なリフレクソロジーは、主に足裏のツボを指や棒で押し、刺激を与えて体の血行を良くすることによって、疲労回復することを目的とした療法であるが、「メイドリフレ」では女の子たちがメイドの恰好をして、施術を行う。特に、秋葉原のリフレ店にはこれは施術代と別にお代を払うと、チェキ撮影はもちろんのこと、メイドにハグをしてもらうことさえできるという。

 ハグは何秒間か時間が決まっていて、メイドが秒数を数えながら客をぎゅっと抱きしめる。いくら仕事とはいえ、「ご主人様」を抱きしめることに苦痛を感じることはないのかと疑問に思うが、メイドだってもちろん人間。ときには不快に思うこともあるようだ。たとえば、普通にハグした後に「いい香りがするね」と言われるくらいならば笑って済ませられるが、中にはメイドの髪や首筋に必要以上に顔を寄せてあからさまに嗅いでくる客もいる。さらに空気の読めない人は「今日は暑かったからすこし汗の匂いも混じっているね、Cちゃんの匂い好きだな」「いつもと髪の匂いが違うね、シャンプー変えたの?」「今日は香水つけてないんだね?でも、このほうがRちゃんの匂いがしていいね」など、メイドたちをドン引きされるようなことを平気で言ってくるというのだから、想像しただけで気持ち悪い。

「メイドリフレ」のオプションは、ハグに留まらず、往復ビンタもある。これは、メイドから思いっきり両方の頬を手のひらでビンタされるものでリフレに通う客の中では人気のオプションであるらしい。そのためか、SM的なプレイを求めて「メイドリフレ」に足を踏み入れるヘンタイな「ご主人様」もいるようで、ストーカー化してしまう場合も少なくはないらしい。

 それにも関わらず、メイドの時給は想像以上に低い。秋葉原ではメイド喫茶ならば、週4〜5日、7〜8時間働くとひと月で十数万円、メイドリフレなら週4〜5日、7〜8時間働くとひと月で十数万〜20、30万円ほどの収入となる。同じ接客業として、ひと月十数万〜数百万円ほどの収入を得ることができるキャバクラと比較すると、これはあまり多くはない収入といえるだろう。しかし、秋葉原で働く女の子たちはキャバクラでガッツリ稼ぐよりも、そこそこの生活ができて遊べるお金があればいいと考えている女の子が多いという。メイド喫茶やメイドリフレは、決められたノルマや熾烈な指名争いもさほどなく、のんびりと楽しく働ける。だいぶ毛色は違うが、可愛い服が着られるファミレスやカフェ、リフレ店で働くような気持ちでいる女の子も多いというのだから驚かされる。

 日本発の世界に誇るサブカルチャー・メイド喫茶、メイドリフレ。どんどん進化している「萌え業界」に今何が起きているのだろうか。この本を読めば、メイドの素顔が垣間みられそうだ。

文=アサトーミナミ