【会社を辞めたいと思っている人へ】京大出身のサラリーマンが勤続18年で挫折した理由、その後悔をさらけ出す

ビジネス

公開日:2015/6/12

 「どうして会社員をそんなに長く続けられるのか?」

 大手不動産会社に入社し、管理部門に配属されて約5年。日々発生する大量の業務で心身ともに疲れ果てていたとき、上司に聞いたことがある。20年以上勤務し上層部からの信頼も厚い上司は、「辞める方が面倒だったから」と答えた。結局辞めることを選択した私は、そう思えること自体がすごいと思った。

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 会社員というものは、会社の中で自然淘汰されていくものだと思う。辞める人間がいくら前向きでカッコのいい退職理由をつけても、つまりはその会社という戦場で活躍できなかった敗者なのだ。『僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと』(バジリコ)の著者、和田一郎氏もそのひとりだろう。

 京都大学を卒業した和田氏は、希望していたマスコミ・出版に入れず、最初に内定をもらった大手百貨店に入社。会社に対する表面的な違和感は消えないまでも、懸命に働いたという。実際、催事企画の担当者になったときには、これまでにない斬新な企画を考え、売上アップに貢献したそうだ。しかし、会社が改革をはじめたとき、彼はマネージャーから専任課長に降格する。40歳になって同期のトップ集団に遅れをとりはじめて、自分がどこかで道を間違えたことに気付く。本書では、退職した和田氏が会社員生活を振り返り、自分の恥を存分にさらけ出している。

 例えば、内向的な割にプライドが高く生意気だったという和田氏は、全身全霊を業務に捧げなくても同僚たちに負けることはないとタカを括っていたという。入社当時のその不遜な姿勢が、結局負けにつながったと後悔する。最初から最大限のパフォーマンスを見せていた同期たちとの差はわずかなものだと思っていたのに、それが20年後には大きく開くことになってしまったという。だから、今の若い人たちは、目の前の仕事をバカにすることなく、早いうちから全力で取り組んでみてほしいと訴える。

 至極もっともで、おじさんたちからよく聞く耳タコな話だと思うだろう。だが、和田氏と同様に、こんな仕事は自分に合わないと思いつつ働きはじめた人は多いのではないだろうか。仲間に遅れたもののその後は仕事の楽しさを覚え、家族のことも顧みず仕事に没頭したという和田氏。それなのに評価されなかったと絶望を感じ、会社を去ることになった彼には、古老の武士のような説得力がある。

 ほかにも、「あんな風になりたいと思う上司をもっと早く見つければよかった」「社内の人間関係にもっと関心を持てばよかった」「同期が先に昇進したことを笑ってやり過ごせばよかった」など、数々の後悔が語られる。たった5年半務めた会社を辞めた私でも思い当たる節が多々あり、読んでいて身につまされる思いだった。

 おそらく和田氏は、ごく優秀な会社員だったのではないかと思う。後輩や部下は守ることに務める代わりに、自分より上の者には楯突いていたという彼は、下の者から見ると頼れる上司だったのではないかと思う。しかし、ぶちあたった高い壁を乗り越えることができず辞めてしまった。「こういうふうに考えて、こうできていたならば」と当時気が付かなかったことを、今同じ轍を踏みつつあるけれど、まだ間に合う若い会社員に伝えたいのだろう。

 会社を続けるというのはすごいことだ。「辞める方が面倒だったから」と飄々とした調子で答えた上司にも、もう少し話を聞いておけばよかった。彼らも壁にぶつかって苦い経験を経て、今があるはずなのだから。先人たちからもらうちょっとしたヒントで、会社員生活は思っている以上に好転するのかもしれない。

文=林らいみ