近年、ダントツで観るべき映画 カンヌ最高賞受賞「雪の轍」日本初上陸

映画

公開日:2015/6/16

  • 雪の轍

 文豪・チェーホフの著作をはじめ、シェイクスピア、ドストエフスキーなど数々の名作をモチーフに作られた映画「雪の轍(わだち)」が、2015年6月27日(土)より順次全国公開となる。

 トルコが誇る巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作である「雪の轍」は、第67回カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドール大賞受賞作品。カンヌ国際映画祭で審査員長を務めたジェーン・カンピオン監督は「知的で洗練された、素晴らしい作品。あまりに引き込まれて 3 時間の映画であることを忘れてしまった。この世界にもっと身を浸していたかった!」とまでコメントしている。

 濃厚な世界観と人の心をえぐる展開、そして圧倒的な映像美によって紡がれる3時間16分に、世界的なメディアからの称賛も相次いだ。世界の名だたる戯曲、音楽、哲学の要素が調和した作品に、各界の著名人から絶賛コメントが寄せられている。

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ジャ・ジャンクー(映画監督)
本作で最も印象深いのは、その“広がり”だ。人間性や生きることを広い視野でとらえている。

大森立嗣(映画監督)
生ぬるい日本映画に飽きているなら、この映画を観ればいい。人生の大事なものに触れてくる一生忘れない映画になるにちがいない。

行定勲(映画監督)
あまりにも素晴らしかった。この映画の素晴らしさを正確に伝える正しい言葉が見つからない。人間の綻びから零れ落ちたモノが私に重くのしかかっているからだろう。近年、ダントツで観るべき映画。

沼野充義(ロシア文学者)
奇岩立ち並ぶカッパドキアでチェーホフとドストエフスキーが響き交わす。ロシア文学を愛するトルコの監督が、原作を超える驚くべき映画世界を創り出した。

浦雅春(ロシア文学者)
カッパドキアの風景もさることながら、室内の空間設計の美しさに息をのむ。静謐な画面にそっと差し出される「悪への無抵抗」の議論。時代錯誤とも思える議論に主人公はさいなまれる。だが、その先には一条の光…。主人公の心の鎧を溶かすには、3時間もの長尺の物語が必要だったのだ。それと同時に、観客は、これが最良の意味での「言葉のドラマ」だと納得する。

池澤夏樹(作家)
こんな大胆な、無謀な映画作りがあるのかと呆れながら、3時間16分の大作を身を乗り出して見た。この映画を駆動しているのは圧倒的な台詞の力だ。これほど緻密に構築された言葉のやりとりを映画で聞いたことはなかった。言葉に容赦がない。どこまでもお互いを追い詰めて力を抜かない。こういう徹底した言葉の闘いを日本人はできるだろうか。

阿刀田高(作家)
夫と妻、兄と妹、富める者と貧しい者、信仰を持つ者と持たない者、日常的な思案・感情のくいちがいが入念に展開され、あきるところがない。画面の美しさ、凄さにも堪能。

河合祥一郎(東京大学教授/シェイクスピア研究)
引用されるシェイクスピアはリチャード三世の開戦の弁だ。美しいカッパドキアの自然の中で展開される知的な葛藤は、不戦と許しという今まさに緊急な問題の核心を衝く。

中島京子(作家)
この濃くて悲しくて度し難い登場人物たちは、私の胸から一生消えないだろう。

澁澤幸子(作家)
人間みんなもろくて弱いけど、人生そんなに悪いものじゃない。雪に閉ざされた世界は重いけれど美しい。光あるラストに胸打たれる。

岩松了(劇作家)
純粋に見えて狡猾、狡猾に見えて手抜かり。生活の充足を求め、思考し行動する人たちに射す光と影。悪に対して自覚的であろうとする彼らの姿がそのまま日々の我々の姿を映し出す。大いなる喜劇!! それでもやっぱり誰も悪くはないと人生を肯定するか、キミは、観客席で!

栗山民也(演出家)
「言葉」と「沈黙」で綴られた、なんと雄弁な劇なのだろう。多くの忘れていた感情が、熱く息をし始めたようだ。「幸せ」を必死で求める人間たちは、どこまでも喋り続ける。

石丸謙二郎(俳優)
これは舞台なのか? 世界遺産カッパドキアで語られる濃密な人間模様に、思わず引き込まれてしまった。イバラのトゲの様に刺さってくる言葉が耳から離れない。

江守徹(俳優)
カッパドキアの穴蔵のような住まいを舞台に繰り広げられる家族の物語は、登場人物たちの語り合う言葉が互いの身体に穴を穿ち合うようで実に迫力がある。これぞ世界遺産だ。

加藤登紀子(歌手)
「暖かな火のある小さな部屋で妻の声を聞いている、それが何より幸せだ。たとえそれが罵倒であっても」かくも辛辣で濃密な対話を、音楽のように楽しめる稀有な映画。

長倉洋海(写真家)
冬のカッパドキアは美しい。その中で、心に固くまとったものが一枚一枚はがされていく。少年の怒りの目、女たちの涙、男の傲慢と後悔。壮大なランドスケープのもとで人間の懊悩が描かれる。そして、最後に帰っていく場所の在処も。

サラーム海上(音楽評論家/DJ/中東料理研究家)
雪に閉ざされたカッパドキアで繰り広げられる、トルコオヤジの重厚な演歌的物語がついにカンヌを制覇した。やはり21世紀はユーラシアの時代なのだ。

斎藤環(精神科医)
チェーホフ・ミーツ・ベルイマン。壮大なカッパドキアの風景に深い奥行きをもたらすのは、人々の軽蔑と憎悪、対話と沈黙、誇りと屈辱だ。誰もが息を呑むあの「暖炉」シーンの衝撃は、映画史上に残るだろう。

  • 雪の轍

「雪の轍」にちりばめられた名作の数々!
 多くのコメントが素晴らしさを物語る「雪の轍」は、カッパドキアの洞窟ホテルを舞台に、今は裕福なホテルのオーナーとして暮らす元舞台俳優のアイドゥンと、若く美しい妻、そして妹との愛憎、さらに主人公が思わぬ形で恨みを買ってしまったある一家との不和を描いた作品。

 カッパドキアに冬が訪れるとともに、取り残された彼らの鬱屈した内面が静かに明らかになっていく、濃厚な人間ドラマである。ストレートな言葉で感情をぶつけ合う登場人物たちには、そこはかとない滑稽さも漂い、さらに「人間であること」を考えさせられる。

 そして、本作の一番の魅力は何と言っても散りばめられた名作の数々であろう。チェーホフ、シェイクスピア、シューベルト、ドストエフスキー、ニーチェ、トルストイなど、細部に至るまであらゆる分野の珠玉の名作が隠されている。いくつ見つけられるか、カウントしながら鑑賞すると、違った楽しみが味わえるだろう。

 観る者を圧倒する本作の監督を務めたのは、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にてグランプリを2回(2011年「昔々、アナトリアで」、2003年「冬の街」)と監督賞(2008年「スリー・モンキーズ」)を受賞したトルコが誇るヌリ・ビルゲ・ジェイラン。満を持してのパルム・ドール大賞受賞作品であり、初の日本公開作品である。

  • 雪の轍

「雪の轍(わだち)」
2015年6月27日(土)より角川シネマ有楽町および新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
脚本:エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:ハルク・ビルギネル、メリサ・ソゼン、デメット・アクバァ、アイベルク・ペクジャン、セルハット・クルッチ、ネジャット・イシレル
原題:Kis Uykusu/トルコ・仏・独/2014年/196分/カラー/シネマスコープ
配給:ビターズ・エンド
(C)2014 Zeyno Film Memento Films Production Bredok Film Production Arte France Cinema NBC Film
⇒「雪の轍」公式サイト

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