父親不在が子どもの向上心を阻害し、無気力にさせる? 子どもに父親が必要な理由

出産・子育て

更新日:2020/8/3

『父という病』(岡田尊司/ポプラ社)

『父という病』(岡田尊司/ポプラ社)

 核家族化、子どもの数の減少、仕事による父親の不在。このような状況で、母子の結びつきがますます強まっている。父親は、長時間労働やたび重なる出張、単身赴任などの激務で家庭での存在感を失い、外で生活費を稼いでくるだけの存在となり果てている。密着した母子関係から排除される父親。『父という病』(岡田尊司/ポプラ社)は、そんな傾向に警鐘を鳴らしている。

 本書によると、そもそも父親とは、「子どもが生まれてくる一年近くも前に、母親となる女性と愛し合い、精子を提供したということ以外に、生物学的な結びつきは乏しく、父親が果たすべき生物学的役割は、これといって存在しない」。分娩や2年近くにおよぶ哺乳といった生物学的役割が与えられている母親とは違い、父親の存在は「不可欠」ではないのだ。平成23年の統計によれば、18歳未満の子どもがいる世帯約1200万世帯のうち、母子だけで暮らす世帯は111万世帯超えで、父子だけで暮らす世帯は12万世帯余り。10倍近い数字の開きが、父親と母親の必要度の違いを表していると見ることもできる。

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 父親は「外で生活費を稼ぐだけの存在」で良いのだろうか。じつは、父親は社会的役割の面で、子どもに大きな影響を及ぼすことがわかっている。父親の不在が、子どもの成長に深刻なダメージを与える。ちなみに、「父親の不在」とは、死別や離婚などの現実的な不在だけでなく、前述した長時間労働や単身赴任など家庭にほとんどいない状態、さらには家庭内で軽視・蔑視されているなど存在感が希薄な状態も含んでいる。

「父親の不在」による主な影響

(1)母子融合
子どもは、2歳頃から母子分離を始めるが、3歳頃にはまた母親にべったりになる(母子融合)。このとき、外界を探索したいという欲求と、母親の庇護に頼りたいという不安で葛藤しているのだが、ここで不安を緩和し、手を引いて外界に誘導するのが「冒険の案内人」の顔を持っている父親の役割。父親不在だと、子どもの母親依存が続きやすい。それだけでなく、やがては母親に対して支配的・攻撃的になり、依存と反発が入り混じった態度を示しやすくなる。

(2)誇大な万能感と自己顕示性
父親には、子どもに「ダメなものはダメ」と否を突き付け、社会の掟や現実の厳しさを教え込む役割がある。父親が「何でも許される」という万能感に歯止めをかけ、自分の限界を体感させないと、誇大な万能感と自己顕示性が残り、将来的に社会への適応を妨げることとなる。

(3)不安やストレスへの弱さ
父親は、家庭外から家族を守るという庇護者としての顔を持つ。父親の不在は、子どもに強い不安とストレスに対する弱さをもたらす。幼い時期に父親不在だった人は、うつに罹患するリスクや、不幸だと感じる割合が高いという。

(4)三者関係の困難
子どもにとって母子の二者関係より思いどおりになりにくい三者関係が、父親がいることで強いられる。しかし、この環境で育つことで、三者以上の複数関係で自分を出せるようになる。父親不在だと一対一でしか安心して自分を出せない、一対一の関係での独占欲が強く信頼関係が結びづらい、集団不適応、などの影響が表れやすい。

(5)向上心の阻害
思春期を迎えるまでは母親だけで育児を乗り切ったとしても、思春期以降に自我を確立する段階で、父親不在が子どもの自我理想の発達を妨げる。向上心が阻害され、投げやりで無気力な状態を生み出しやすく、学業や社会的な成功にもマイナスの影響を与えやすい。

(6)性的アイデンティティの混乱
男の子の場合は、将来、男性としてのアイデンティティや社会適応に困難を抱えやすくなる。性的アイデンティティの混乱や、性的欲望の障害につながる場合もある。女の子の場合は、母親が父親不在を不幸だと感じていると、女性や母親としての役割に消極的だったり違和感を覚えたりすることがある。

(7)親になることへの困難
男の子の場合、将来、子どもを持つことを躊躇したり、父親としてどう振る舞えばいいかわからないという不安を覚えるケースが多い。パニックに近い強い不安を覚えることもある。パートナーを独占できないことで子どもをライバルのようにみなしてしまい、見捨てられたという思いにとらわれ、夫婦関係が破綻してしまうケースもあるという。女の子の場合は、夫に対しても子どもに対しても過度に理想化した存在を求めがちになり、強い失望や怒りを生む。結果、誰よりも求めているはずの安定した家庭生活を手に入れにくくする。

 生物学的役割だけでなく社会的役割も含めると、子どもは本来、父親も母親も必要としている。男性と女性どちらにも父性と母性があるといわれ、母親だけでも父親の役割を多少はカバーできる場合もあるというが、特異な2つの存在の間で微妙なバランスを取るほうが、子どもは自己確立を成し遂げやすいという。

 本書は、子どもから父親を奪ったのは利益追求を優先する社会であると理解を示しながらも、「外で生活費を稼ぐだけの存在」となっている父親がもう一度本来の役割を取り戻すことが求められている、と締めくくっている。

文=ルートつつみ