他人の視線が怖い、自信が持てない…「豆腐メンタル」は果たして克服できるのか!?

人間関係

公開日:2015/6/24

 豆腐メンタル。これはネットスラングのひとつで、生きていくのが困難なほど繊細で、文字通り「豆腐」のように脆弱な精神のことを指す言葉だ。叱られると数日立ち直れない、「すみません」が口ぐせ、自分にまったく自信が持てない…。これらの傾向は、特に最近の若者に多く見られるものだ。

 マンガ家の小久ヒロ氏も、自他共に認める、筋金入りの豆腐メンタルの持ち主。周囲からどう見られているのかがいちいち気になり、他人からの視線に恐怖すら覚える。けれど、それを相談できるような人間関係もうまく構築できない。結果、延々と悩み続ける。まさに負のスパイラル状態。そんな小久氏が、自身の豆腐メンタルを抱えたままで思い切って旅に出たさまを描いたのが、『旅したら豆腐メンタルなおるかな?』(イースト・プレス)だ。

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 豆腐メンタルを持つ人間にとって、なにが起こるか予測不可能な旅なんて、避けたいもののひとつ。けれど、小久氏は、「もう全部どうでもいい。やりたいことをやってやろう!」と、半ばヤケクソで旅に出ることを決意した。

 向かったのは、ドイツ、福島、台湾、タイの四カ所。初めての海外旅行、苦手な集団行動、見知らぬ土地での人間関係…。それらはことごとく、小久氏の豆腐メンタルに揺さぶりをかける。

 まずはドイツ。この土地で小久氏が思ったのは、「ドイツ人は、あまり笑わない」ということ。街中の人はおろか、カフェの店員やホテルのフロントマンまでもが、1ミリも笑ってくれない。そのことで、小久氏の豆腐メンタルは大崩壊。自分は歓迎されていないんだ。この胡散臭いアジア人め、と思われているんだ。もう帰りたい。と、被害妄想全開だ。ところが、徐々にそれは思い込みであると気づく。みな仏頂面だが、親切にしてくれる。笑いかけてくれないのは、自分を威嚇しているわけではなく、単なる国民性ゆえ。これがドイツの「笑わない自由」なのか――。

 それに気づくと、ドイツでの滞在も妙にラクなものに。常に周囲の空気を読み、それでがんじがらめになることも多い日本とは異なり、ドイツでは空気なんて読まなくても大丈夫。一見怒っているように見えても、本当は別に怒っていない人もいる。そして、それは空気を読む文化の日本においても、通ずるところがあるのではないか。空気なんて、読まなくても死なないんだ。これが、小久氏がドイツで発見した処世術である。

 その後、福島では短期ボランティアでの集団生活にチャレンジし、威圧的な人との接し方を克服。さらに、台湾で出会ったおばちゃんから「たとえ失敗したとしても、私の人生は素晴らしいと笑えばいい」と、人生観を変える名言をもらうことに。

 そして、最後に訪れたのは、タイ。ここで小久氏は、豆腐メンタルを克服する、ある考えにたどり着く。それは、人の心にはみな同じものが詰まっている、ということ。愛情、恐怖、嫉妬、憧れ、呪い…。それらの感情を、どれだけどのように外に出すのか。それは性格や生育環境によって異なってくる。ただ、それだけなのだ。そう考えると、人間関係においてなにも怖がることなんてない。豆腐メンタルの人間だけが弱いわけではなく、すべての人間が同じ感情・気持ちを持っているのだから。

 旅を終えて、小久氏はこう振り返る。考え方次第で、世界は本当に変わる――。周囲の視線にビクビクしてしまうのも、自分自身を無価値だと責めてしまうのも、すべては自身の心の持ちよう。それに気がつくことができたのは、旅先でさまざまな人に出会えたからなのだ。もしも、豆腐メンタルで悩み、苦しんでいる人がいたならば、ぜひ小久氏のように旅に出ることをオススメしたい。想像以上に、「旅」は、ぼくらに大切なことを教えてくれる。

文=前田レゴ