きっかけは『刀剣乱舞』でOK! 史実から刀剣たちの「刃生(じんせい)」を知ろう!!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

 最近、巷では『刀剣乱舞』というオンラインゲームが流行っている。通称「とうらぶ」と呼ばれるこのゲームがどのくらい人気なのかといえば、開催されたイベントであまりに人が集まりすぎて近隣住民からクレームがつき、警察まで出動する騒ぎになってしまった程だ。

 それほど人気のこのゲーム、一体どんなものなのか。簡単にいうと「刀剣男士」と呼ばれる刀剣を擬人化した存在の描かれたカードを揃え、合戦場の敵を討伐していく育成ゲームである。そして本作のキモともいえる「刀剣男士」が見事に世の女性の心を掴み、一気にブレイクしたのだ。だがプレイヤーの中で、最初から擬人化のモデルとなった刀剣について知っていた人はどれだけいるのか。おそらくほとんど皆無だろう。それでも「とうらぶ」を始めて興味を持ったという人は多いはず。そんな刀剣ビギナーにオススメしたいのが『日本刀と武士 その知られざる驚きの刃生』(二木謙一:監修/実業之日本社)である。

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 まずこの書籍、帯に大きく「三日月宗近」の文字が踊っている。三日月宗近といえばゲームでも屈指の人気を誇り、フィギュア化までされるというまさに「名物」だ。さらにカバーイラストにはカッコイイ武士が刀剣を構える姿が描かれ、「とうらぶ」ファンを相当意識している本だといえる。中身に関しても、カラー口絵には三日月宗近を筆頭に「骨喰藤四郎」や「和泉守兼定」といったゲームにも登場する刀剣の実物写真が掲載され、見ているだけでテンションが上がっていく。とはいえ、やはり気になるのはその内容。刀剣たちは一体どんな「刃生」を送っていたのか──。

 「足利義輝」という人物を知っている人は多いだろう。教科書にも出てくる、室町幕府第13代将軍である。このお方、実は「剣豪将軍」とも呼ばれ、相当な剣の使い手だったのだ。そして彼の愛用した一振りというのが三日月宗近なのである。足利義輝は1565年に松永久秀の襲撃を受けて討死するのだが、三日月宗近を含む多くの名刀を手に奮戦したと伝わっている。三日月宗近は後に徳川将軍家の宝剣となり、現在は国宝として東京国立博物館に収蔵されている。ちなみに三日月の由来は、刀身に浮かび上がる「まるで夜空に輝いているかのような三日月模様」なのだという。

 この他にも「とうらぶ」に登場する刀剣男士のモデルとなった刀剣のエピソードは多く扱われている。例えばゲームでも人気の高い「加州清光」。この刀は、幕末に活躍した新選組の一番隊組長を務めた「沖田総司」の愛刀だったという。新選組の沖田総司といえば幕末でも特に人気の高い人物なので、その愛刀ゆえにゲーム内でも人気が高いという見方もできそうである。新選組を一躍有名にした「池田屋事件」でも大活躍した刀であるから、史実の経歴を知っていれば、思い入れがより強くなること請け合いだ。ちなみに「和泉守兼定」「大和守安定」もランキング上位の人気刀だが、これらも新選組の隊士が使っていたものである。

 ここまで「とうらぶ」関連で内容を見てきたが、もちろんそれ以外の刀剣も多く収録している。本書は「忠義」「武勇」「悲劇」「怪奇」「名誉」と5つのテーマに分けて刀剣を紹介しており、さまざまなエピソードが取り上げられているのだ。特に「怪奇」の章は面白く、例えば「天下五剣」の1本に数えられている「童子切安綱」では、源頼光が人食い鬼・酒呑童子を退治する伝説が紹介されている。他の章でも「波泳ぎ兼光」の斬られた相手が泳いで逃げた後で首が落ちた話や、なんと鉄隕石で作られた「流星刀」という珍品まで紹介されていた。またコラムも充実しており、「逆刃刀は実在した!?」などオタク心をくすぐるようなことにも触れているのは嬉しいところだ。

 本書を一読すれば、刀剣に関するさまざまな知識や魅力を知ることができる。その上でもしも「とうらぶ」ファンならば、まだゲームに出ていない刀剣のエピソードを楽しみつつ、「次に実装されるのはこれかなぁ」などと思いを巡らせるのも一興ではなかろうか。

文=木谷誠(Office Ti+)