【戦後70年】“重ね地図”を頼りにGHQ占領下の銀座を歩いてみた

社会

公開日:2015/7/12

 またひとつ、大きな節目を迎えようとしている。まもなく訪れる8月15日「終戦の日」。玉音放送と共に、いったんの終結を迎えた第2次世界大戦から、70年が経過する。当時の状況をじかに体験した祖父母の世代が亡くなるのをみるにつれて、改めて、歴史を語り継ぐということへの儚さもわき上がってくる。

 節目となる今年、先の大戦をテーマにした本も数多く出版される中、GHQ(連合国軍総司令部)占領下にあった日本と現在を繋ぐ本『重ね地図シリーズ 東京 マッカーサーの時代編』(太田稔/光村推古書院)を手に取ってみた。当時と現代の街並みを地図上で照らし合わせ、戦時下の時代背景などを貴重な資料と共にたどった一冊だが、同書を頼りに、今でこそ日本有数の繁華街となった銀座を歩いてみた。

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占領政策の中枢を担っていた「GHQ本部」の跡地

 東京メトロ日比谷線・銀座駅。C1出口から地上へと出ると、右手には大きな有楽町マリオンが見える。そのまま正面の高架下をくぐり日比谷線のA4出口を通り過ぎ、日比谷交差点を右に曲がってすぐの場所にはかつて「GHQ本部」と占領政策の中枢を担っていた「民政局」が置かれていたという。現在は、丸の内警察署と帝国劇場に挟まれる、旧第一生命館ビル(現DNタワー21)がある場所だ。


重ね地図を頼りにGHQ占領下の銀座を歩いてみた

 皇居と向かい合うこの場所には、当時、7階建てのビルがあった。GHQにより接収されたのは終戦からまもなくの1945年9月。6階には最高司令官であったマッカーサーの執務室。その室内の机には引き出しがなかったという。理由は、マッカーサーが「即断即決」を信条としており、書類を保管する必要がなかったため。1952年9月には所有者へ返還され、現在、当時の執務室は「マッカーサー記念室」として保存されている。

戦前の外観が残る「ニューズウィーク」東京支局が置かれていた場所

 銀座駅のC2出口から数寄屋橋交差点へ向かい、目印となる朝日新聞や松竹のロゴが見えるビルと反対方向へ。数分ほどまっすぐ進み、銀座西六丁目交差点の一角に見えてくるのが、アルファベット表記の社名が目立つ「電通銀座ビル」だ。占領下だった当時、この場所にはアメリカの有力週刊誌『ニューズウィーク』の東京支局が置かれていたという。


重ね地図を頼りにGHQ占領下の銀座を歩いてみた

 戦前の1933年に建てられたという8階建てのビルだが、当時からの外観が現在もほぼそのまま残されているという。その理由の一つは、関東大震災での経験から、設計事務所などが耐震や耐火に細心の注意を払ったため。占領下では、広告代理店の電通が『ニューズウィーク」の日本代理店となったほか、同誌の幹部だった外信部長のハリー・カーン、東京支局長のパナケムが出入りしていて、詳細は、戦後をたどる1冊『占領史追跡 −ニューズウィーク東京支局長パナケム記者の諜報日記−』(青木冨貴子/新潮社)でも描かれている。

進駐軍の兵士たちが夜な夜な通ったという日本最古のビヤホール

 先ほどの銀座西六丁目交差点。電通銀座ビルを正面にして左へ曲がり数分。6区画ほど進み、銀座六丁目交差点の一角に見えてくるのが「ビヤホール・ライオン銀座7丁目店」である。かつてこの場所には、進駐軍専用のビヤホールが置かれていたという。


重ね地図を頼りにGHQ占領下の銀座を歩いてみた

 1934年に工事を終えたこの建物の名称は「大日本麦酒本社ビル」。現存する日本最古のビヤホールとしても知られ1952年1月に接収が解除されるまで、アメリカ軍の関係者たちが通うダンスホールとして利用されていた。ビルに名を残す「大日本麦酒」は、戦後、財閥解体を主な企図とした「過度経済力集中排除法」によりサッポロビールとアサヒビールに分割。現在の「ビヤホール・ライオン」は、サッポロビール系列の株式会社サッポロライオンにより運営されている。

 取材当日、休憩がてら立ち寄った喫茶店でサラリーマンの人に話しかけられた。年齢はおそらく50才前後。カメラの液晶を見つめる僕が気になったようだが、「こういう本を元に銀座を歩いていまして」と答えると、「へえ、知らなかったねぇ」と興味深そうにページをぱらぱらとめくっていた。


重ね地図を頼りにGHQ占領下の銀座を歩いてみた

 最後に、象徴ともいえる銀座四丁目交差点を撮影して、この日の取材は終わった。戦時下では外壁だけを残して消失したという三越を眺め、信号待ちしていたところ、和光本館のビルに設置された時計台から鐘の音が聞こえた。時間はけっして止まることなく、今この瞬間にも進み続けている。過去を知るため、記録を頼りに街を歩くとまた違った景色が見えてくるような気がした。

写真・文=カネコシュウヘイ