ヒトと菌類と植物… 進化を辿って見えてきた生き物たちの意外な繋がりとは?

科学

公開日:2015/7/23

 『進化論』で有名なダーウィンは、かつて「あらゆる生物は1つの祖先から進化したものである」と唱えたという。ヒトは、もともと猿のように生活していたというのは有名な話。さらに歴史をさかのぼれば、陸上で生活する前は水中で暮らし、そもそもは、この地球上で生命として初めて誕生したのが細菌だというのも多くの人たちに伝わる考えである。

 さて、地球の歴史は46億年だといわれる。生命が初めて姿をあらわしたのは約38億年前だというが、たった1種類だったはずの生命がいくつかの局面を通るうちに、様々な姿へと進化を遂げてきた。

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 しかし、ヒトを地球上のひとつの生命として考えた場合、進化というのはにわかに実感をおぼえづらい部分もある。目や鼻、口元などが似ている猿やチンパンジー、ゴリラなどが近しい存在だというのは分かる。だが、爬虫類や植物、菌類であるキノコですらその祖先だといわれるのは、不思議な感覚も抱く。

 では、様々な生命とヒトにはどういった共通点があるのか。その疑問に答えてくれる1冊がある。書籍『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史 僕たちの祖先を探す15億年の旅』(ベレ出版)だ。

 著者は、進化生物学者の長谷川政美さん。ヒトとチンパンジー、ヒトとチンパンジーとゴリラ、さらには、ヒトとチンパンジーとゴリラとオランウータンといった形で共通点をたどれる“系統樹”を元に、地球上の生命がどのような進化を辿ってきたのか、全20章にわたり、歴史をさかのぼりながら丁寧に紐解いてくれる。

 そこで、同書を元に、ヒトといくつかの生命にどのような共通点がみられるのか。進化の歴史を辿りながら、紹介していきたい。

鳥類や爬虫類とヒト。そこにあるのは「羊膜類」という共通点

ゴワゴワな肌が特徴の爬虫類。じつは、ヒトとの共通点があった?

 年代こそ不明だが、同書によれば、哺乳類に共通した祖先をさかのぼると、鳥類を含む爬虫類とも同じ祖先に行き着くという。しかし、我々ヒトは、羽を使って空を飛べるわけでもなく、地を這(は)って生活するわけでもない。では、いったい何が共通しているというのだろうか。

 じつは、そこにあるのは「羊膜類」だという共通点である。羊膜類とは、受精した直後にみられる生命の初期段階「胚」を包み込む羊水が、羊膜で覆われている生き物をあらわす生物学上の分類だ。陸上で住むヒトや鳥、海に住むクジラなどが、水中で卵を産むカエルなどの両生類とは異なる進化を遂げた理由でもある。

栄養源を他の生き物に頼る全ての動物と菌類

厳密には細菌などと異なる菌類。姿形からするとヒトと異なりそうだが…

 羊膜類が姿をみせた時代からさらにさかのぼると、現在のキノコに代表される菌類が、生命として痕跡を残した時代へと行き着く。そこにいたのは、ヒトだけではない全ての動物と菌類に共通した祖先である。

 同書によれば、動物がまだ姿をあらわしていなかった時代、ヒトの祖先は「細菌や原生生物を分解する菌類のような生き物」だったと考えられているそうだ。じつは、姿こそ異なるようにみえる動物と菌類だが、栄養源を他の生き物に頼る「従属栄養」と呼ばれる生き方が共通している。ひいては、菌類の誕生がなければ、生物が生まれ、亡くなり、生態系が現在のように維持されるという「物質循環」が起こらなかったという指摘もある。

植物とヒトの関係性。共通する祖先は15億年も前から生きていた?

同書で取り上げられたシャクナゲ。光合成で自ら栄養を蓄える植物とも共通する部分が?

 菌類の誕生以前をたどってみると、植物との共通した祖先もみえてくる。動物と菌類と植物。一見、かけ離れたように見えるこれらの生き物たちは、ともに「真核生物」に分類されている。

 真核生物とは、細胞ごとの活動を司る“核”が核膜により覆われた生き物。対して、核膜を持たない生き物は“原核生物”と呼ばれる。当然、ここでいう祖先はヒトとも共通したものになるが、同書によれば、生きていたとされる時期は「およそ15億年前」。しかし、植物の光合成に必要な葉緑体ができる前であったため、酸素での呼吸をしながら「細菌などを食べる従属栄養の生き物だった」と考えられているようだ。

 格闘技などでもおなじみのフレーズ、ヒトも属する霊長類最古の化石は「2,600万年前のもの」だという。地球の生き物がたどってきた歴史を振り返ると、ヒトが過ごしてきた時間は、まだまだ浅いようにも思える。ただ、系統樹を辿ってみると、地球上に住むたくさんの生き物が意外にも繋がっているのが分かる。同書をたよりに、長きにわたる進化の歴史をたくさんの人に味わってもらいたい。

文=カネコシュウヘイ